
淋病(淋菌感染症)の基礎知識
淋菌感染症(淋病)は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)によって引き起こされる性感染症(STD・STI)です。淋菌は男性と女性の両方に感染し、主に尿道、子宮頸部、ノド、直腸に影響を及ぼします。
淋病は適切な治療法を選択することで治療できる病気です。淋病の原因、患者数、特に気をつけたい淋菌に感染しやすい年代などの情報をまとめました。淋菌感染症の症状や治療法、予防法などもあわせて紹介します。では、淋菌感染症について詳しく見ていきましょう。
淋菌感染症(淋病)とは?
淋菌感染症とは、淋菌(Neisseria gonorrhoeae/ナイセリア・ゴノレア)という細菌が感染して引き起こされる疾患です。一般的に淋病と呼ばれています。主に性行為によって感染する性感染症の1つです。原因菌の淋菌はグラム陰性球菌の一種で、ヒトにしか感染しません。淋菌はヒトの粘膜を離れると非常に死滅しやすいので、性行為以外の接触で感染することはごくまれです。
患者総数と男女比
日本での患者数は、厚生労働省のデータを元にしたグラフで以下にあらわします。

参考:性感染症報告数 /厚生労働省
淋病の患者数は男性が圧倒的に多く、女性患者は比較的少数です。しかし、女性は感染しても自覚症状がほぼ無く、医師の診断を受けていないケースが多数見受けられます。そのため、女性の場合、報告されている患者数よりも実際の患者数は多いと考えられます。
感染しやすい年代
淋菌感染症は性に活発な男女がかかりやすい疾患です。淋菌感染症の患者数を、各年代の男女別に見てみましょう。以下のグラフは、厚生労働省のデータより平成27年分を抜粋したものです。

参考:性感染症報告数 / 厚生労働省
このグラフから、淋菌感染症にかかりやすいのは女性なら20代、男性なら20代から30代前半であることがわかります。淋菌感染症の患者数は、男女ともに年齢が上がるにつれて減少していきます。男女共通で患者数が多い20代は性に活発な年代なので、特に感染予防を意識しましょう。
淋菌感染症(淋病)に感染する原因は?感染率は?
淋菌はヒトの粘膜や分泌物の中にいます。具体的に、淋菌が潜んでいるのは以下のようなところです。
- 尿道
- 精液
- 外陰部
- 膣分泌物
- 肛門
- 尿
- 咽頭(ノド)
淋菌は粘膜と粘膜が触れ合うことによって感染するので、主な感染経路は性行為です。セックス(膣性交)、アナルセックス(肛門性交)、オーラルセックス(フェラチオ・クンニリングス)、ディープキスなどといった行為が感染につながります。淋菌に感染している人との性行為があると、1回につき30%~50%の確率で感染します。ヒトの粘膜以外では死滅しやすい淋菌ですが、粘膜同士での接触では感染率が高いのです。
母子感染(垂直感染)
性行為以外の感染経路としては、母子感染(垂直感染)があげられます。妊婦が淋菌に感染していると、新生児が生まれてくるときに通る産道で感染(産道感染)してしまうのです。産道感染が起きると、新生児は淋菌性結膜炎になります。淋菌性結膜炎を防ぐため、新生児は生まれるとすぐに抗菌薬の目薬で処置されます。
さらに詳しい淋菌感染症(淋病)の原因は、淋菌感染症(淋病)の原因と感染経路、性交渉以外の原因は?で紹介しています。
淋菌感染症(淋病)にかかると、どんな症状が出る?
淋菌感染症にかかったとき、どのような症状があらわれるのでしょうか。まずは潜伏期間と症状、代表的な疾患を男女別にご説明します。さらに、男女共通の症状と併発しやすい性感染症もあわせて見ていきましょう。
男性の症状
男性が淋菌感染症にかかると、潜伏期間は2日~10日ほどです。淋菌に感染してから数日後には初期症状が出ます。
男性が一番発症しやすいのは淋菌性尿道炎です。淋菌性尿道炎が発症すると、排尿痛、尿道から白色または黄緑色の膿が出る、といった症状があらわれます。
男性は初めから症状が出やすいので、すぐに気づいて治療ができます。しかし、治療せずに長期間放っておくと、淋菌の感染は尿道から精巣上体まで広がります。ここまで症状が悪化すると淋菌性精巣上体炎となり、睾丸の痛みや腫れが出てきます。淋菌性精巣上体炎は無精子症につながります。淋菌感染症は、放置すると男性不妊症になる危険性があるのです。
女性の症状
女性が淋菌感染症にかかった場合、症状が出にくいので潜伏期間もはっきりしません。淋菌に感染してから10日以上経って症状が出る場合もあります。ほとんどの女性は無症状なので、知らないうちに感染源になってしまい、症状も悪化していきます。
女性が発症しやすいのは淋菌性子宮頚管炎です。症状はわかりにくいですが、おりものの量が増えたり、膿が混じったりします。感染に気づかず放っておくと、症状が悪化し、卵管炎や卵巣炎になります。悪化しているときの症状は性交痛や下腹部痛です。男性と同じく、女性も症状がひどくなると不妊症につながります。
女性がかかりやすい「淋菌性咽頭炎」
淋菌性咽頭炎は男女ともになる可能性がありますが、特に女性に多い疾患です。オーラルセックス(フェラチオ)の時に、女性のノドに男性器が直接触れることが原因となります。咽頭炎になっても自覚症状はほぼ無く、少しノドに違和感がある程度です。
男女共通の症状
男女共通の症状は肛門や目、全身に出ます。
肛門の症状
アナルセックスによって淋菌が肛門に感染すると、直腸淋菌感染症になります。直腸淋菌感染症もノドと同じく症状が出にくい疾患です。症状が出るときは、肛門のかゆみや出血、便秘などです。
目の症状
目に淋菌が感染した場合は淋菌性結膜炎になります。淋菌性結膜炎は、母子感染によって新生児が発症しやすい疾患です。成人でも、淋菌に感染している分泌物が目に入ると発症します。症状はわかりやすく、まぶたが腫れて多量の膿が出ます。失明の危険性があるので、早めに治療しなければなりません。
全身の症状
まれに淋菌が血液に感染してしまうと、全身性の疾患である播種性(はしゅせい)淋菌感染症になります。発熱や関節痛が主な症状です。全身の皮膚にできものができる場合もあります。
併発しやすい性感染症
淋菌感染症にかかったとき、併発する可能性が高い性感染症があります。併発しやすい2つの性感染症についてもあわせて知っておきましょう。
性器クラミジア感染症
日本で1番患者数が多い性感染症です。淋菌感染症にかかっている人のうち20%~30%が性器クラミジアも併発しています。性器クラミジアと淋菌感染症はあらわれる症状がよく似ているので、併発していても自覚症状がありません。併発していることに気づかないまま淋菌感染症だけを治療すると、クラミジアの菌が残ってしまいます。淋菌感染症にかかったら、同時にクラミジアの検査もしましょう。
HIV感染・エイズ(AIDS)
エイズ(AIDS・後天性免疫不全症候群)にかかると、免疫が著しく下がり、重大な疾患を引き起こします。エイズの原因となるのがHIV(ヒト免疫不全ウイルス)です。淋菌感染症にかかると、HIVの感染率が数倍になります。淋菌感染症のなどの性感染症は、粘膜に炎症が起きるため、HIVに感染しやすくなるのです。
さらに詳しい淋菌感染症(淋病)の症状は、淋菌感染症(淋病)の症状は?女性は症状が出にくい、男性は尿道炎で紹介しています。
淋菌感染症(淋病)の検査法と治療法
淋菌感染症の症状と自身の症状を見比べて、「感染の可能性がある」と思ったら、一度検査を受けましょう。淋菌感染症はどのようにして検査を受けるのでしょうか。また、検査を受けてからどのような治療をするのでしょうか。

どうやって検査する?
淋菌感染症を疑って不安になったら、まず検査で確かめましょう。検査は病院か保健所、郵送の検査キットで受けることができます。淋菌はヒトの粘膜から離れると死滅しやすく取り扱いが難しいので、基本的には病院や保健所でしっかり検査することをおすすめします。
検査の時に必要なのは、患部の分泌物などです。感染している部位ごとに、表でわかりやすくまとめました。

主に男性ならば尿、女性ならば膣分泌物で検査します。性器以外に症状があらわれている場合、その付近の細胞または分泌物を採取します。
淋菌感染症の検査結果は、通常1週間程度で出ます。病院によっては即日で検査結果を出してくれるので、症状がひどい場合は早めに結果が出る病院を選びましょう。
病院での検査費用は3,000円~10,000円程度です。保健所での検査は無料、もしくは数百円程度で受けることができます。
さらに詳しい淋菌感染症(淋病)の検査方法は、淋菌感染症(淋病)の検査は病院か保健所で、検査→診断で治療で紹介しています。
検査で陽性…治療法は?
淋菌の検査で陽性が出たら、早めに治療しましょう。淋菌感染症の治療は抗菌薬(抗生物質)でおこなわれます。治療法は基本的に病院での点滴か注射が有効です。もちろん飲み薬を処方される場合もあります。近年、淋菌感染症では、さまざまな抗菌薬に耐性のある耐性菌が問題となっています。淋菌感染症の治療薬として、確実に効果がある抗菌薬が少なくなっているのです。
点滴と注射
耐性菌でも、1回で効果があるのは点滴と注射です。病院で第1選択薬として使われている抗菌薬は、セフトリアキソン(ロセフィン)とスペクチノマイシン(トロビシン)です。この2つは保険適用の抗菌薬で、ほぼ確実な効果があります。点滴か注射で治療をすると、ほとんどの場合は1回で淋菌感染症が完治します。もし1回の治療で効果が薄ければ、抗菌薬の用量を増やして2回投与します。
飲み薬
抗菌薬の飲み薬で治療する場合、ジスロマックのシロップが有効です。第1選択薬ではありませんが、上の2つの抗菌薬にアレルギーがある場合に処方されます。海外の研究結果では治療失敗の報告があるものの、日本では90%以上の効果が認められています。さらに、ジスロマックはクラミジアにも効果がある抗菌薬です。そのため、淋菌感染症とクラミジアを併発している場合にも効果的なのです。
さらに詳しい淋菌感染症(淋病)の治療法や治療薬は、淋病の治療薬と予防法、飲み薬が耐性の少ないジスロマックが有効で紹介しています。
淋菌感染症(淋病)の予防法
ここまでは淋菌感染症の原因や症状、治療法について説明してきました。最後に、淋菌感染症にかからないための予防法を知りましょう。

コンドームで感染を防ぐ
淋菌感染症に限らず、性感染症の予防法として代表的なのはコンドームです。粘膜同士が直接触れ合わないようにするので、性感染症を防ぐことができます。淋菌感染症も例外ではなく、コンドームによって予防できます。
特に注意したいのは、アナルセックスやオーラルセックスでは避妊を意識しないため、コンドームを付けない人が多いことです。そうした無防備な状態で性行為をすることによって、淋菌感染症にかかってしまいます。くわえて、淋菌感染症では肛門やノドの症状は出にくいため、感染していることに気づけません。そのため無自覚のまま、次は自分が感染源となってしまうのです。
コンドームは避妊のためだけでなく、性感染症予防のためにも正しく使いましょう。
事前に検査を受ける
コンドームの使用だけでは、絶対的に淋菌感染症を予防できるとは限りません。パートナーに症状が無いとしても、淋菌に感染している可能性はあります。また、自分自身も気づかないうちに淋菌に感染しているかもしれません。性行為の経験があれば、誰でも淋菌に感染している可能性があります。新しいパートナーができたら、性行為に至る前に一緒に検査を受けましょう。
検査で感染していないことがわかれば安心してセックスができます。もし感染していた場合でも、先に気づいて治療すれば、お互いに感染させてしまうことはありません。
無防備なセックスは、淋菌感染症にかかる危険性を高めます。しっかりと予防を心がけましょう。
まとめ
淋菌感染症は性行為によって感染し、20代の男女がかかりやすい性感染症です。性器だけでなく、ノドや全身にも感染します。特に女性は感染しても症状が出にくく、知らないうちに症状が悪化してしまいます。疑わしい症状がある場合、早めに検査と治療をしましょう。
淋菌感染症にかからないよう、無防備なセックスをせず、しっかりと予防することが大切です。