
淋病(淋菌感染症)の原因と感染経路、性交渉以外の原因は?
淋菌感染症(淋病)とはどのような病気なのでしょうか?病名を知っていても、淋菌感染症にかかってしまう詳しい原因を知らない人も多いのではないかと思います。
いま淋菌感染症にかかってしまっている人、これから淋菌感染症を予防したい人も、まずは感染してしまう原因を知ることが大切です。根本的な原因を知ることで、正しい対処法が見えてきます。
淋菌感染症の原因菌にはどういった特徴があるのか、どこから感染してしまうのかなどを詳しく見ていきましょう。
淋菌感染症の原因菌の分析
淋菌感染症(淋病)とは、細菌感染によっておこる性感染症です。淋菌感染症の病原体は淋菌(Neisseria gonorrhoeae/ナイセリア・ゴノレア)という細菌です。淋菌は、直径0.6㎛~1㎛のグラム陰性球菌で、そら豆のような形をした菌が2つくっついた双球菌です。
淋菌はどんな環境で育つのか
淋菌は高温・低温どちらにも弱く、また乾燥にも弱いので、ヒトの粘膜から離れて生きるのは困難です。淋菌は30℃以下、40℃以上になると死んでしまいます。加えて、淋菌はヒトにしか感染しません。そのため、ヒトからヒトへの性交渉での感染が一般的です。淋菌が一番元気に発育するのは、温度36℃~37℃、炭酸ガス5%~10%の環境です。微好気性という性質で、3%~15%の酸素を必要とします。
淋菌と髄膜炎菌の違い
淋菌とよく似た仲間としてあげられる菌が、淋菌と同じグラム陰性球菌の髄膜炎菌です。
本来この2つの菌は感染する体の部位が異なり、発症する疾患も異なります。淋菌感染症の原因である淋菌は尿路、もしくは性器に感染し、尿道炎や子宮頚管炎を引き起こします。髄膜炎の原因である髄膜炎菌はノドに感染、そこから中枢神経系に至り、髄膜炎を引き起こします。
しかし、淋菌もオーラルセックスでノドに、髄膜炎菌も尿路や性器に感染する場合があります。そのため、病状だけで淋菌と髄膜炎菌を判別するのは難しいのです。淋菌と髄膜炎菌、どちらの菌が感染しているのかは、しっかりとした検査で見極めなければなりません。
淋菌と髄膜炎菌を見分ける方法は、マルトースを分解できるかどうかです。マルトースを分解すれば髄膜炎菌、しなければ淋菌なので、どちらの菌かを検査で調べることができます。淋菌と髄膜炎菌を比べると、淋菌はやや発育が遅いのも特徴です。
淋菌感染症の原因は?感染経路と感染率
淋菌がどのような菌かわかったところで、感染源と感染経路を知りましょう。どういった経路で淋菌に感染するのか、また淋菌に感染する確率はどれくらいなのかを分析していきます。
感染源
まず、ヒトに感染した淋菌はどこに潜んでいるのでしょうか。
淋菌は粘膜や身体の分泌物のなかにいます。具体的には尿道・精液・外陰部・膣分泌物・肛門・尿・口腔(くち、ノド)・唾液などに住みついているのです。
主な感染経路
淋菌に感染する主な経路は性交渉、または性的な接触です。
感染が疑われる性的接触として、セックス(膣性交)、アナルセックス(肛門性交)、オーラルセックス(フェラチオ・クンニリングス)、ディープキスなどがあげられます。
淋菌は性器以外にも潜んでいるので、必ずしも膣性交だけでうつるわけではありません。射精という行為がなくても、粘膜と粘膜が接触することで感染します。たとえ患者の口腔に菌があっても、通常の軽いキスや回し飲み程度の接触では感染しません。しかし、ディープキスやオーラルセックスといった深い接触をすると感染しやすくなります。
性交渉による感染率
淋菌感染症患者との性交渉による感染率は、1回あたり30%~50%とされています。感染率を男女別で見るとそれぞれ差があります。詳しくは以下引用文でご説明します。
感染は 1 回の性行為により排菌男性から女性に 50~ 60%、排菌女性から男性に約 35%が伝播し成立するとされている 1)。
引用文からわかるように、男性から女性へ淋菌がうつる確率は50%~60%です。対して、女性から男性へ淋菌がうつる確率は約35%となっています。比較すると、男性が女性へ淋菌をうつしてしまう確率が高いことがわかります。
感染しやすいのは男性?女性?
淋菌感染症は、女性患者に比べ男性患者が多い性感染症です。厚生労働省のデータより平成27年の患者数を抜粋し、わかりやすく男女比をグラフにしたのが以下です。

参考:性感染症報告数 / 厚生労働省
男性は性行為1回あたりの感染率は女性より低いものの、風俗利用での感染が多く見受けられます。不特定多数の相手と性交渉をおこなう女性とのセックスやオーラルセックス(フェラチオ)などが、感染のリスクを増加させる要因となっているのです。オーラルセックスの場合、相手の咽頭に住みつく淋菌と男性器が接触して感染します。
女性の場合は自覚症状があまりないため、感染していることすら気づかないケースが多くあります。そのため、自身でも気付かないうちに感染源となってしまうのです。
性交渉以外で感染するか
性行為が代表的な感染経路ではあるものの、別の感染経路も考えられます。性交渉以外で感染源となるのは、公共のお風呂やトイレ、タオルの共有などです。
上記したように、淋菌自体は弱い菌なので、患者の粘膜から離れると感染力は下がります。しかし感染力が低いとはいえ、身体の免疫力も下がっていると、公共の場でも感染する可能性があります。淋菌感染症患者が使ったタオルをそのまま使うことで感染する場合もあります。可能性が低いとはいえ、感染の可能性があれば細心の注意を払いましょう。
淋菌の潜伏期間
淋菌に感染した場合、どれくらいの期間で初期症状があらわれるのでしょうか。淋菌の潜伏期間を男女別に見ていきます。
潜伏期間と主な初期症状:男性の場合
男性の場合、比較的早い段階で、自覚できるハッキリとした初期症状が出ます。
初期症状が出るまでの潜伏期間は、2日~10日ほどです。最初は感染した部位に症状があらわれます。男性の症状として多いのは、排尿時の痛みや陰茎から黄緑色の膿が出る、頻尿になるというものです。
潜伏期間と主な初期症状:女性の場合
女性の場合、最初に感染したことに気付くまで男性より時間がかかります。
淋菌感染症にかかったほとんどの女性が無症状、もしくはとても軽度な症状しか出ないのです。そのため、はっきりとした潜伏期間はわかりませんが、10日以上経ってから初期症状が現れます。
最初は外陰部に少し違和感を感じたり、膿のようなおりものが出ることがあります。また若い女性に増えてきているのが、ノドへの感染です。潜伏期間は3日~10日ほどですが、淋菌がノドに感染していても、ほとんど症状は出ません。
女性は症状が出にくいうえに、潜伏期間にも個人差があります。潜伏期間を過ぎて症状がないからといって、安心はできません。
母子感染(垂直感染)の危険性
母親が持つ病原体が赤ちゃんに感染することを母子感染(垂直感染)といいます。母子感染タイミングは胎内・分娩・母乳と大きく3つに分けることができます。なかでも、淋菌感染症は分娩時の産道での感染が、母子感染の原因となります。母乳などでうつることはありません。妊婦が淋菌に感染している場合、症状がないとしても出産前に治療をする必要があります。治療は注射、もしくは飲み薬でおこないます。
母子感染した場合の処置
もし産道感染によって淋菌がうつってしまった場合、新生児に出る症状は化膿性結膜炎です。通常すべての新生児は結膜炎予防のため、抗菌の目薬または目軟膏を用います。淋菌に感染している場合は、加えて注射での治療もおこなわれます。
妊娠中に淋菌感染症が疑われるのであれば、生まれてくる赤ちゃんのためにも検査・治療をおこないましょう。
まとめ
淋菌感染症の原因となる淋菌は、ヒトにしか感染しません。主に性交渉によって感染します。母子感染の危険性もあるので、妊婦の感染には十分注意しましょう。
淋菌感染症の原因菌や感染経路を深く理解することは、感染予防と治療に必ず役立ちます。
感染を拡大させないためにも、一人ひとりが意識して淋菌感染に対処することが大切です。