
梅毒の基礎知識
近年、感染者数が増加傾向にある梅毒。主な感染経路は?この症状ってもしかして梅毒?検査や治療にはどれくらいの費用がかかる?などなど、梅毒に関する疑問を一緒に解消していきましょう。
梅毒の原因は?どんなことで感染する?
梅毒とは、梅毒トレポネーマという細菌が引き起こす性感染症です。梅毒に感染すると、およそ3週間ほどで性器や皮膚、口腔内にしこりなどの症状があらわれます。梅毒は病期が進行するにつれ、症状がどんどん重篤化していく恐ろしい病気です。では、梅毒の原因とは、一体どのようなものなのでしょうか。
梅毒は性行為によって感染する
梅毒の主な感染経路は、性交です。コンドームを使用しない膣性交をはじめ、オーラルセックスやアナルセックスでも梅毒は感染します。口腔内にしこりなどの梅毒の症状が出ている場合は、キスだけでも感染する恐れがあります。梅毒は感染してもすぐに症状が出なかったり、潜伏期間をたびたび挟んだりするため、感染者本人も気づかないうちに感染を広めてしまいます。
一方で、梅毒トレポネーマは乾燥や温度変化に弱いため、人間の皮膚や粘膜でしか生きられません。そのため、お風呂やプール、トイレといった場所で感染者と間接的に皮膚や粘膜を共有しても、感染することはありません。
母子感染や血液感染の可能性も
性交以外で感染する可能性があるとすれば、母子感染と血液感染です。
母子感染とは、すでに梅毒に感染している女性が妊娠し、治療しないまま出産することで起こりえます。母体となる女性が梅毒に感染していると、胎盤を通してお腹の胎児にも感染してしまいます。こうして生まれながらに梅毒を患わっている状態のことを先天梅毒といいます。しかし、最近では妊娠初期の段階で梅毒検査を必ず行い、もし梅毒に感染していることが分かればすぐに治療をするため、母子感染は少なくなってきました。
また、血液感染とは感染者からの血液や臓器の提供が原因で起こります。しかし、輸血や臓器の提供を行う際には、それらを使用しても問題がないか必ず医療機関が検査をします。そのため、こういったルートでの感染はほぼないといえるでしょう。ただし、もし別の病気が理由で、自宅で自己注射を行う場合は、針の共有だけはしないよう注意してください。
それでは、ここまでお話ししてきた梅毒の原因についてまとめてみましょう。
原因まとめ
- 感染者とのコンドームを着用しない膣性交により感染する
- 性器と口(オーラルセックス)、また性器と直腸(アナルセックス)でも感染する
- 口腔内に梅毒の病変があれば、キスでも感染する
- 梅毒トレポネーマは温度の変化に弱いため、感染者とお風呂やプール、トイレを共有しても梅毒には感染しない
- 梅毒にかかっている状態で妊娠・出産すると生まれた子も梅毒になってしまう(母子感染)
- 不用意に他人の血液に触れたり、注射針を共有したりすると感染する恐れも(血液感染)
母子感染や血液感染は、それぞれ事前に梅毒検査や輸血・移植に使えるか検査をするため、やはり感染の確率は低いでしょう。このことから、梅毒に感染する最も大きな原因は性交であるといえます。
梅毒の症状はどんなもの?
梅毒は、第1期から第4期まで、4つの病期があります。それぞれの時期に異なった症状があらわれ、病期が進むにつれ症状は重くなっていきます。詳しい症状について、第1期から順に見ていきましょう。
第1期の症状
第1期とは、梅毒に感染後3週間から3ヵ月の時期を指します。第1期から第2期にかけてを早期梅毒と呼びます。
梅毒に感染すると、およそ3週間ほどで初期症状として小豆ほどの大きさをした赤いしこりがあらわれます。男女によってしこりのあらわれる場所が異なり、男性は陰茎(亀頭、包皮、冠状溝など)に、女性は膣の周辺(大陰唇や小陰唇)にしこりが生じます。このしこりは基本的に痛みを伴わないのですが、どちらかといえば男性のほうが痛みを感じやすいです。また、女性と比べると男性のほうが患部を直接目で確認しやすいため、男性のほうが早い段階から梅毒の感染に気づきやすい傾向にあります。
こうした症状は2~3週間もすると自然と治まりますが、これは治ったわけではありません。梅毒は一時潜伏期間に入り、感染者の気づかないうちに第2期へと移行するのです。
第2期の症状
第2期は、感染後3ヵ月から3年の期間を指します。
第2期にあらわれる症状は非常に様々です。その中でも特に代表的な症状が、以下の通りです。
症名 | 具体的な症状 |
---|---|
バラ疹 | バラの花びらのような赤い湿疹が顔、腹、手足、背中などの全身にあらわれる。大きさは約1~2㎝。しばらくすると治まる。 |
梅毒性丘疹 | バラ疹が治まった後に発症。白っぽい色の湿疹で、バラ審よりもひとつひとつの大きさは小さい。 |
扁平コンジローマ | 梅毒性丘疹がわきの下などの湿っぽい場所に発生した際にできる。エンドウ豆大ほどの大きさで、柔らかいイボのような形状。 |
梅毒性乾癬 | 梅毒性丘疹が手のひらや足の裏など、皮膚の硬い部位に発生した際に起こる。皮膚が盛り上がり、乾燥した皮が付着する。 |
また、こういった症状の他にも円形脱毛や全身のリンパの腫れ、発熱や倦怠感といった風邪によく似た症状も起こります。梅毒に感染し、第3期まで病状が進行してしまうと、もう手の施しようがない場合がほとんどです。そのため、第2期の時期は梅毒の治療を行える最後のチャンスともいえます。上記のような症状が出た場合には、すぐに病院へ行って治療を受けましょう。
第3期の症状
第3期は、梅毒に感染後3年から10年の期間のことを指します。第3期から第4期にかけてを晩期梅毒と呼びます。なお、現代では第2期までに治療を行う場合が多いため、第3期まで症状が進行することはほぼありません。
第3期になると、体にゴム腫が生じます。その名の通りゴムのような弾性を持った腫瘍が、皮膚のみならず、肝臓や腎臓、骨などの器官にもあらわれます。ゴム腫ができるとその部分の肉が削げ落ち、見た目にも痛々しい症状です。
この他にも神経梅毒といって、梅毒トレポネーマが中枢神経系に直接侵入して引き起こされる症状もあらわれます。神経梅毒になると頭痛や発熱を起こす他、神経系へのダメージが起因して運動障害や記憶障害なども引き起こされます。
第4期の症状
第4期とは、梅毒に感染後の10年以降を指します。
梅毒もいよいよ末期を迎え、梅毒トレポネーマが心臓などの臓器や血管、神経を侵します。腫瘍が脳や脊髄にも発生するため、痴呆や言語障害なども起こります。日常生活を送ることができない状態で、やがては死に至ります。
先述したように、近年では第3期以降まで病期が進行することはありません。しかし、治療をせず放置しておくと梅毒は確実に重症化します。第2期の段階で症状に気づいたら、早めに病院で検査を受けましょう。
梅毒の検査方法は?
梅毒に感染しているかを判別するには、梅毒血清反応検査を行います。採血をし、梅毒に感染したことにより体内に生まれる抗体を検出する検査です。梅毒血清反応検査にはSTS法とLP抗原法の2種類があります。STS法とは、梅毒に感染すると体内で作られるカルジオリピン抗体を検出する方法です。LP抗原法は、梅毒トレポネーマそのものに対するTP抗体を検出する方法です。この2つの方法どちらかで検査をするわけではなく、両方の検査法を組み合わせて梅毒かどうかを判断します。検査の結果、梅毒に感染していると判断される場合は以下の二通りです。
- STS法での結果が陽性、TP抗原法での結果が陰性
- STS法、TP抗原法での結果がどちらも陽性
STS法が陰性でLP抗原法が陽性の場合は、梅毒治療後の抗体保持者であると考えられます。
いつから検査可能?病院の何科へ行くべき?
こうした梅毒の検査が受けられるようになるまでの期間は、感染からおよそ4週間後です。感染後4週間以内に検査を受けても正確な結果は得られないため、注意してください。性病科で検査を受けることがベターですが、もしも抵抗があるようでしたら男性は泌尿器科、女性は婦人科へかかってみてください。
梅毒はどうやって治療する?
基本的に、梅毒は病院で経過を診てもらいながら治療していきます。そのため、病院から処方されるような治療薬は 市販されていません。
梅毒の治療では、主にペニシリンを使います。日本性感染症学会は、梅毒患者は1日3回、500㎎の経口合成ペニシリン剤を服用するよう推奨しています。なお、ペニシリンアレルギーである場合は塩酸ミノサイクリンを1日2回100㎎、また妊婦の場合はアセチルスピラマイシンを1日200㎎(6回に分ける)服用します。このように、ひとくちに梅毒治療といっても、感染者の状態によって処方される薬は異なります。
梅毒の治療費は?
梅毒の治療にかかる費用は、検査代がおよそ2,000~4,000円、約4週間分の薬代が3,000円程度です。ちなみにこれは保険が適用される場合の金額です。保険の利かない場合は、検査代、薬代ともに先ほどの金額に約7,000円程度は上乗せされると考えましょう。
梅毒に感染しないためには
先ほどお話ししたように、梅毒の主な感染経路は性交です。そのため、梅毒を予防するには安全な性生活を心掛けることが大切です。
予防法まとめ
- 性交の際には必ずコンドームを着用する
- 感染の不安がある行為(不特定多数の異性との行為)はしない
- 血液感染を防ぐため、カミソリや注射針の共用はしない
これらのことに十分気を付け、梅毒に感染しないよう注意してください。また、梅毒と思われる症状があらわれた場合は、ただちに病院へ行って検査を受けましょう。梅毒は、第2期までなら薬剤療法 で完治が可能です。手遅れになる前に、早期発見・早期治療を心掛けましょう。