公開日
2018/03/09
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抗真菌薬とは、真菌(カビ)による感染症(真菌症)の治療薬です。

抗真菌薬は、水虫やいんきんたむし、性器カンジタ症など、皮膚真菌症の治療に用いられます。ほかにも呼吸器や消化器など、内臓に発症する真菌症にも対応しています。

このページでは、抗真菌薬が効果を発揮する仕組み、特性について解説します。抗真菌薬の種類や副作用、薬剤耐性についても紹介します。

抗真菌薬は真菌の細胞膜や細胞壁を破壊する

抗真菌薬は、真菌の細胞に働きかけて、増殖を防止します。抗真菌薬には、外用薬・内服薬・注射薬の3種類があり、発症している部位に合わせて薬を選択します。

抗真菌薬が作用するメカニズム

抗真菌薬は、真菌細胞を攻撃をして、真菌自体を殺したり、真菌の増殖を止めたりします。真菌と人間との細胞の違いを利用して、真菌だけを狙い撃つのです。

抗真菌薬は細胞膜に作用する

抗真菌薬は、細胞に対して様々な方法で攻撃を加えます。攻撃の標的になるのは、細胞膜の成分・エルゴステロールです。

抗真菌薬の主な作用
  1. 細胞膜そのものを攻撃して膜を破壊する
  2. 細胞膜の合成を邪魔する

ひとつは、真菌の細胞膜にあるエルゴステロールにくっついて膜を攻撃します。攻撃によって膜に穴が開けば、細胞の中身が漏れ出して、真菌は死滅するのです。もうひとつは、エルゴステロールが細胞膜を作る工程を邪魔します。エルゴステロール自体の生成を邪魔すれば、細胞膜が作れないため、真菌は増殖できないのです。

抗真菌薬は人の細胞と真菌細胞の差を狙う

真菌と人間の細胞の大きな違いは、細胞膜の成分と細胞壁の有無です。

真菌の細胞膜はエルゴステロールで、人間の細胞はコレステロールで構成されています。また、真菌には細胞壁がありますが、人間の細胞には細胞壁はありません。抗真菌薬はこれらの違いを利用して、真菌の細胞膜や細胞壁だけに働きかけます。

抗真菌薬は外用薬・内服薬・注射薬の3つ

抗真菌薬には外用薬・内服薬・注射薬の3つがあり、発症している部位によって使用する薬は変わります。

外用薬とは、塗り薬や目薬のことです。皮膚やまぶたのように、体の表面に発症している真菌症(表在性真菌症)に用いられます。皮膚カンジダ症や性器カンジダ症なども、外用薬で治療します。内服薬や注射薬は、皮膚の内側や内臓で発症した真菌症(深在性真菌症)に用いられます。代表的な例では、スポロトリコーシスやアスペルギルス症です。

抗真菌薬と抗菌薬の違い

名前は似ているものの、抗真菌薬と抗菌薬では、治療できる感染症が異なります。抗真菌薬は真菌(カビ)の感染症に、抗菌薬は細菌の感染症に対応するのです。真菌と細菌には、遺伝子を包み込む核の有無に、大きな違いがあります。構造の違いが、薬の作用メカニズムにも影響しているのです。

抗真菌薬は大別すると4種類ある

抗真菌は、作用のメカニズムで、4種類に分けられます。攻撃の標的になるのは、真菌の細胞膜や細胞壁など様々です。

【抗真菌薬の4系統】
  • ポリエン系抗真菌薬
  • アゾール系抗真菌薬
  • フロロミジン系抗真菌薬
  • キャンディン系抗真菌薬

ポリエン系抗真菌薬

ポリエン系抗真菌薬は、真菌の細胞膜の浸透性を変えることで、真菌細胞を殺します。

真菌の細胞膜は、エルゴステロールと呼ばれる化合物で構成されています。ポリエン系抗真菌薬はエルゴステロールと結びつき、細胞膜の浸透性を変化させるのです。細胞膜は浸透性が変わると、真菌細胞は自身に必要な成分を維持できず、成分が細胞の外へ漏れだしてしまいます。その結果、真菌細胞は死滅するのです。

【代表的なポリエン系抗真菌薬】
  • アムホテリシンB(商品名:ファンギゾン)
    • 効果のある真菌症
      • 呼吸器真菌症
      • 真菌髄膜炎
      • リーシュマニア症など
    • 薬剤の種類
      • 点滴薬
      • 注射薬
      • 経口シロップ
  • ナイスタチン(商品名:ナイスタチン錠50万単位「明治」)
    • 効果のある真菌症
      • 消化管カンジダ症
    • 薬剤の種類
      • 経口薬
  • ナタマイシン(商品名:ピマリシン)
    • 効果のある真菌症
      • 角膜真菌症
    • 薬剤の種類
      • 点眼薬

アゾール系抗真菌薬

アゾール系抗真菌薬は、真菌の細胞膜に必要なエルゴステロール化合物を作れないようにします。

真菌は、エルゴステロール化合物がないと、細胞膜を作れずに死滅します。ポリエン系抗真菌薬で記載したように、真菌の細胞膜にはエルゴステロールが必要不可欠です。アゾール系抗真菌薬で、エルゴステロール自体の合成を阻止できれば、真菌は増殖できません。

【代表的なアゾール系抗真菌薬】
  • ミコナゾール(商品名:フロリード)
    • 効果のある真菌症
      • 消化管真菌症
      • 真菌血症
      • 真菌髄膜炎など
    • 薬剤の種類
      • 外用薬
      • 注射薬
  • フルコナゾール(商品名:ジフルカン)
    • 効果のある真菌症
      • 呼吸器真菌症
      • 消化管真菌症
      • 性器カンジダ症など
    • 薬剤の種類
      • 経口薬
      • 経口シロップ
      • 注射薬
  • ラノコナゾール(商品名:アスタット軟膏)
    • 効果のある真菌症
      • 皮膚カンジダ症
      • 白癬(水虫・いんきんたむし)
      • 癜風(でんぷう)
    • 薬剤の種類
      • 外用薬

フロロピリミジン系抗真菌薬

フロロピリミジン系抗真菌薬は、核酸(DNAやRNA)の合成を邪魔することで、真菌細胞を増殖できないようにします。核酸には、細胞の形成に欠かせない遺伝情報などが入っています。核酸の合成を止めれば、真菌は死滅するのです。

【代表的なフロロピリミジン系抗真菌薬】
  • フルシトシン(商品名:アンコチル)
    • 効果のある真菌症
      • 黒色真菌症
      • 真菌性髄膜炎
      • 尿路真菌症など
    • 薬剤の種類
      • 経口薬

キャンディン系抗真菌薬

キャンディン系抗真菌薬は、細胞壁の合成を邪魔することで真菌を殺す薬です。

真菌の細胞壁は、グルカンと呼ばれる糖で構成されています。キャンディン系抗真菌薬は、グルカンを構築させないようにして、細胞壁を合成できないようにするのです。真菌細胞は、細胞壁がなくなると、形を保てずに死滅します。人間の細胞には細胞壁がないため、キャンディ系抗真菌薬なら、真菌を集中的に攻撃できるのです。

【代表的なキャンディン系抗真菌薬】
  • ミカファンギンナトリウム(商品名:ファンガード)
    • 効果のある真菌症
      • 呼吸器真菌症
      • 消化管真菌症
      • 真菌血症など
    • 薬剤の種類
      • 注射薬
  • カスポファンギン酢酸塩(商品名:カンサイダス)
    • 効果のある真菌症
      • 慢性壊死性肺アスペルギルス症
      • 侵襲性アスペルギルス症
      • 侵襲性カンジダ症など
    • 薬剤の種類
      • 注射薬

抗真菌薬の副作用は皮膚や臓器にあらわれる

抗真菌薬の副作用は、外用薬なら皮膚にあらわれ、内服薬なら臓器にあらわれます。

外用薬の副作用

抗真菌薬の外用薬は、軟膏剤、クリーム剤、液剤など様々です。外用薬を使ってあらわれる副作用は、赤みやかゆみ、かぶれなどを生じる、アレルギー性接触皮膚炎です。薬の成分が皮膚に接触した際に、刺激やアレルギー反応を起こします。抗真菌薬のなかでは、特にイミダゾール系抗真菌薬(アゾール系)のクロトリマゾール、ケトコナゾール、塩酸ネチコナゾールなどで、接触皮膚炎がみられます。

内服薬・注射薬の副作用

内服薬の副作用で最も多いのは、下痢や胃痛、食欲不振といった胃腸関係の異常です。これらの症状は、服用するとすぐに現れます。注射薬の副作用では、腎臓や肝臓の機能障害が生じます。薬を使いはじめてからは、肝機能や腎機能の検査を定期的に行い、機能障害が発生していた場合は薬の量を減らします。

抗真菌薬は、ほかの薬との飲み合わせにより、相互作用が起こりやすい医薬品です。抗真菌薬を服用している最中、別の病気で受診する場合は、自分が飲んでいる薬を医師に伝えましょう。

抗真菌薬にも薬剤耐性の問題がある

抗真菌薬で薬剤耐性が起こる理由は、真菌自体が進化するからです。抗真菌薬のなかでは、深在性真菌症の治療薬で、薬剤耐性が確認されています。

抗真菌薬の薬剤耐性が起こる仕組みは2つ

抗真菌薬に薬剤耐性が発生する仕組みは2つあります。1つ目は、真菌が自身の構造を変化させるからです。2つ目は、細胞の外へ薬を排出するポンプを身に着けるからです。この薬剤排出ポンプを1つ身につけるだけで、何種類もの抗真菌薬に対応できる場合もあります。

抗真菌薬の薬剤耐性は深在性真菌症で確認されている

耐性菌は、水虫などの皮膚真菌症では、確認されていません。一方、臓器で発症する深在性真菌症で、薬剤耐性菌が確認されています。深在性真菌症の薬剤に耐性ができやすい理由は、治療の期間が長いからです。深在性真菌症の治療は、数カ月から数年にまで及びます。治療期間が長ければ長いほど、抗真菌薬を飲む量も増えるので、薬剤耐性のリスクも高まるのです。

抗真菌薬のまとめ

抗真菌薬とは、真菌による感染症の治療薬です。

抗真菌薬は、真菌の細胞に働きかけることで、増殖を防止します。抗真菌薬には、役割の異なる4系統の薬があります。それぞれが細胞膜や細胞壁、核酸などに働きかけるのです。

抗真菌薬の副作用は、外用薬なら赤みやかゆみ、かぶれがあらわれます。内服薬では、下痢や胃痛など、消化器に副作用がでます。臓器で発症する深在性真菌症の薬で、薬剤耐性が確認されています。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「抗真菌薬」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。