
抗寄生虫薬(こう・きせい・ちゅうやく)
抗寄生虫薬とは、寄生虫が原因で引き起こされる感染症の治療薬です。
抗寄生虫薬には、数種類の寄生虫に効果があるといった薬は存在しません。寄生虫の数だけ薬があると言っても過言ではないのです。そのため、抗寄生虫薬は対応する寄生虫ごとに作用も異なります。
このページでは、抗寄生虫薬の効果や働き、種類について解説します。薬の効果がなくなってしまう、抗寄生虫薬の薬剤耐性についても見ていきましょう。
抗寄生虫薬は寄生虫症の治療と予防に用いられる

抗寄生虫薬は、寄生虫の成長や増殖の過程で効果を発揮します。薬の服用は症状が出てからだけに限らず、予防を目的に利用するケースもあります。
抗寄生虫薬は寄生虫の成長や増殖を防ぐ
抗寄生虫薬は、寄生虫による感染症の治療薬で、体内の寄生虫の成長や増殖を防ぎます。
一言で寄生虫と言っても、種類は多種多様です。アメーバなどの単細胞の原虫は、人体に侵入したあとで増殖をはじめます。蠕虫(ぜんちゅう)と呼ばれるミミズのような寄生虫は、人間の腸内で成長した挙げ句、体内に寄生します。寄生虫ごとに増殖や成長の過程は異なるものの、基本的には自身が増えたり大きくなりながら、人体に悪影響を及ぼしていくのです。抗寄生虫薬は、寄生虫が増殖したり成長する変化の過程で効果を発揮します。
- 抗寄生虫薬の効果
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- 寄生虫を麻痺させて殺す
- 寄生虫に栄養を分泌・吸収させない
- 寄生虫の膜を破壊する
- 寄生虫の付着を防ぐ
- 寄生虫のDNA合成を防ぐ
抗寄生虫薬は寄生虫症の発症を予防する
抗寄生虫薬は、治療以外にも予防目的で服用します。死亡率が高い危険なマラリアも、予防することで発症を抑えられます。
日本国内でマラリアに感染する可能性はほぼないものの、アフリカや東南アジアなどに渡航する場合は、現地で感染する危険性があります。マラリアには有効なワクチンが開発されていません。そこで、滞在中の予防措置として服用できるよう、事前に日本で薬を購入して、現地に持ち込むのです。抗寄生虫薬を飲んでおけば、マラリアの発症率を90%の確率で予防できると言われています。ただし、クリニックで予防を目的に処方を希望しても、健康保険は適用されません。費用の全額を自己負担します。使用する薬剤にもよりますが、2週間分で7,000円から12,000円ほどかかってしまいます。
抗寄生虫薬は4種類に大別される

抗寄生虫薬は、対応する寄生虫のタイプによって4種類に大別されます。寄生虫を病原とする感染症には、線虫症、吸虫症、条虫症、原虫症があります。この4分類の寄生虫症に対し、抗寄生虫薬がそれぞれ開発されているのです。
- 抗線虫薬
- 抗吸虫薬
- 抗条虫薬
- 抗原虫薬
ここでは、それぞれの抗寄生虫薬について、効果や副作用を詳しく見ていきましょう。
1.抗線虫薬
抗線虫薬は、線虫による感染症(線虫症)の治療薬です。代表的な線虫症は、糞線虫症や疥癬、回虫症などが挙げられます。抗線虫薬のなかにもいくつかの種類があり、感染している線虫症によって使い分けられます。主な抗線虫薬はイベルメクチン、メベンダゾール、パモ酸ピランテルの3種類です。
イベルメクチン
イベルメクチンは、線虫を麻痺させて殺す薬剤です。商品名は、ストロメクトールと言います。イベルメクチンは、糞線虫やヒゼンダニなどの無脊椎動物の細胞膜を覆うタンパク質だけを狙って攻撃します。イベルメクチンによって、細胞膜のタンパク質の濃度が変化することで、線虫の筋肉や神経が麻痺し、殺虫すると考えられているのです。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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メベンダゾール
メベンダゾールは、線虫の細胞作りを邪魔し、線虫が栄養を取り込めないようにする薬剤です。メベンダゾールは、線虫が持つ微小管の形成を邪魔します。微小管は、細胞の形成や運動に関わっている、細胞の骨格のひとつです。この微小管の形成が邪魔されると、糖分が取り込めなくなり、線虫は活動できません。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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パモ酸ピランテル
パモ酸ピランテルは、腸内の線虫を麻痺させる薬剤です。商品名は、コンバントリン錠と言います。パモ酸ピランテルは、線虫の神経部分で効果を発揮し、線虫を麻痺させます。パモ酸ピランテルで麻痺した線虫は、腸の内側(腸壁)に張り付けません。腸壁に張り付けなかった線虫は、便とともに体外へ排出されるのです。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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2.抗吸虫薬
抗吸虫薬は、吸虫による感染症(吸虫症)の治療薬です。代表的な吸虫症として、住血吸虫症、肝吸虫症、肺吸虫症などが挙げられます。吸虫症にはプラジカンテルが効果的です。
プラジカンテル
プラジカンテルは、吸虫の皮膚を損傷させて殺す薬です。商品名は、ビルトリシド錠と言います。プラジカンテルは吸虫に浸透し、虫の体を覆っている膜の構造を変えます。膜が不安定になると、カルシウムが流入します。カルシウムの流入により、吸虫の外皮や筋肉が傷つき、吸虫は死に至るのです。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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3.抗条虫薬
抗条虫薬は、条虫による感染症(条虫症)の治療薬です。代表的な条虫症は、嚢虫症、裂頭条虫症(サナダムシ)、エキノコックス症が挙げられます。これらの条虫症の治療で用いられるのは、アルベンダゾールとプラジカンテルです。
アルベンダゾール
アルベンダゾールは条虫の成長を止める薬です。商品名は、エスカゾール錠と言います。アルベンダゾールの詳しい働きは明らかになっていません。条虫の細胞で微小管や酵素が作られるのを妨げると考えられています。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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プラジカンテル
プラジカンテルはの効果と働きは、抗吸虫薬で記載した通りです。もともとは抗吸虫薬ですが、条虫にも効果があります。プラジカンテルは、主に裂頭条虫症など腸内の条虫に有効です。条虫に対して使用する場合は下剤と一緒に服用し、条虫を体外へ排出させる必要があります。条虫を完全に排出しきらないと、再び腸内で成長してしまう可能性があるからです。
4.抗原虫薬
抗原虫薬は、原虫症の治療薬です。有名な原虫症にはマラリア、膣トリコモナス症、赤痢アメーバ症などがあります。マラリアの治療に用いられるのはアルテミシニン、メフロキン塩酸錠、アトバコン・プログアニル配合錠です。膣トリコモナスや赤痢アメーバ症の治療には、メトロニダゾールが用いられます。
アルテミシニン
アルテミシニンは、赤血球内に寄生している マラリア原虫 を死滅させます。商品名は、リアメット配合錠です。
アルテミシニンの詳しい働きは、まだ明らかになっていません。マラリア原虫が赤血球を破壊する酵素に反応する、と考えられています。アルテミシニンは、その酵素からマラリア原虫を辿って攻撃し、赤血球に寄生しているマラリア原虫を攻撃するのです。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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メフロキン塩酸塩
メフロキン塩酸塩は、赤血球内でマラリア原虫の増殖を抑える薬です。商品名は、メファキン「ヒサミツ」錠です。
メフロキン塩酸塩は、マラリア原虫が赤血球内のヘモグロビンを取り込めないように働きかけます。ヘモグロビンはマラリア原虫にとって活動に必要な栄養源です。
メフロキン塩酸塩が作用するのは、マラリア原虫が食物を吸収する袋のような細胞器官(食胞)です。マラリア原虫は、食胞を酸性に変化させて、ヘモグロビンを消化できます。メフロキンは、原虫がヘモグロビンを消化できないように、食胞の性質をアルカリ性に変えてしまうのです。メフロキンは、マラリアを治療するだけでなく、予防する薬としても利用されます。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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アトバコン・プログアニル塩酸塩
アトバコン・プログアニル塩酸塩は、マラリア原虫の増殖を抑える薬です。商品名はマカロン配合錠です。
アトバコン・プログアニル塩酸塩は、2つの成分を掛け合わせた薬剤です。アトバコンとプログアニル塩酸塩は、いすれもマラリアの治療や予防に使われていた薬です。単体で使うと簡単に薬剤耐性が起きてしまうため、2つの薬を組み合わせて使います。マラリア原虫の繁殖に必要な成分の生成を抑えるほか、核酸の合成に必要な成分を同時に抑えます。アトバコン・プログアニル塩酸塩も、マラリアを治療するだけでなく、予防する薬としても利用されます。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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メトロニダゾール
メトロニダゾールは、原虫を攻撃する化合物を生み出します。同時に原虫のDNAを攻撃して、増殖を防ぐのです。商品名はラジール内服錠です。
メトロニダゾールは、原虫の体内に入り込んでニトロソ化合物に変化します。ニトロソ化合物とは、原虫を攻撃する物質です。原虫のDNAを切断する効果も持っています。DNAを切断された原虫は、体の仕組みが不安定になるため、死に至ると考えられています。
効果のある寄生虫症 |
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副作用 |
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抗寄生虫薬の薬剤耐性

抗寄生虫薬を使っていると、次第に薬が効かなる薬剤耐性が起こります。寄生虫症の流行地域では、薬剤耐性を持った寄生虫が増えているのです。
抗寄生虫薬の薬剤耐性は突然変異で起きる
抗寄生虫薬の薬剤耐性は、寄生虫の細胞が突然変異することで発生します。
人間の体内にいる寄生虫が、抗寄生虫薬に触れることで、何らかの変異が起きて、耐性を持つのです。しかし、変異の原因や薬剤耐性の経緯などについてはまだ判明していません。薬剤と寄生虫の接触が耐性化の原因なので、寄生虫に対して同じ薬剤を使い続けていると、それだけ変異が生じる可能性も上がります。そのため、同じ薬剤の長期使用は寄生虫に耐性を持たせるのです。
抗寄生虫薬の薬剤耐性は拡がる
薬剤耐性を持った寄生虫が1体でも生まれると、人を介した感染によって、薬剤耐性の被害は拡大するのです。
抗寄生虫薬の薬剤耐性が広がっている原因については、まだすべてが解明されているわけではありません。原因のひとつとして、薬剤耐性が人から人へと広まっているのではないか、と考えられています。マラリアを例に挙げて説明します。薬剤耐性を持ったマラリア原虫の感染者に蚊が噛みつき、その蚊が別の人にも噛みついたとします。すると、蚊は運び屋の役割を果たし、2人目の体にも耐性マラリア原虫が入るのです。それを繰り返すことで、耐性寄生虫は広がり、寄生虫症の流行地域では薬剤耐性を持った寄生虫が増えていきます。
まとめ
抗寄生虫薬は、寄生虫による感染症の治療に用いられる薬剤です。寄生虫の成長や繁殖を防ぐ効果があります。また、薬剤の種類によっては、直接的に寄生虫を攻撃して駆除するものもあるのです。
抗寄生虫薬は大きく分けて、抗条虫薬・抗吸虫薬・抗条虫薬・抗原虫薬の4種類です。対象となる寄生虫によって、作用や効果がそれぞれ異なります。
抗寄生虫薬では、薬剤耐性が発生しています。抗寄生虫薬の薬剤耐性は寄生虫の遺伝子が突然変異することで、生まれるのです。また、抗寄生虫薬の薬剤耐性は人から人へと感染し、薬に耐性を持った寄生虫が増えていくのです。
参考文献・参考サイト
性病の用語集「抗寄生虫薬」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。