公開日
2018/03/27
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抗ウイルス薬とは、ウイルスが原因で生じている感染症の治療薬です。

1つの抗ウイルス薬は、1つのウイルスにしか効果を発揮しません。HIVウイルスには抗HIV薬が、インフルエンザには抗インフルエンザ薬が対応します。適応するウイルスの種類、作用や効果は、抗ウイルス薬ごとに異なるのです。

このページでは、抗ウイルス薬の特徴をはじめ、それぞれの抗ウイルス薬の働きや副作用を記載しています。また、抗ウイルス薬の薬剤耐性についても見ていきましょう。

抗ウイルス薬とは

抗ウイルス薬とは、ウイルスの増殖を抑制する化学療法薬です。抗ウイルス薬は主成分の作用によって、2つのタイプに分けられます。1 つ目は、ウイルスに作用して、ウイルスの増殖を直接的に抑えるタイプです。2つ目は、人体に作用して、ウイルスの増殖を間接的に抑えるタイプです。

抗ウイルス薬の作用は大きく分けて2つ

抗ウイルス薬は大きく分けて2タイプあります。

抗ウイルス薬の作用タイプ
  1. ウイルスに作用して、ウイルスの増殖を直接的に抑えるタイプ
  2. 人体に作用して、ウイルスの増殖を間接的に抑えるタイプ

ウイルスに作用して、ウイルスの増殖を直接的に抑えるタイプ

ウイルスに直に作用するといっても、ウイルスそのものを攻撃するわけではありません。体内でウイルスが増殖する仕組みに働きかけることで、ウイルスのコピーを作らせないのです。コピーの組み立て作業を邪魔したり(DNA合成阻害)、コピーの組み立てに必要な材料(酵素やタンパク質)を変形させたりします。ウイルスがコピーを制作する過程を邪魔して、体内での増殖を抑えるのです。

人体に作用して、ウイルスの増殖を間接的に抑えるタイプ

薬の作用(インターフェロン)で、人体にもともと備わっている免疫力を強化します。インターフェロンとは、人体がウイルスに感染すると作り出される対抗物質です。インターフェロンで免疫を活性化させることで、ウイルスを攻撃する物質や、ウイルスのコピー作成を邪魔する物質を作り出します。患者自身の免疫力を活性化させることで、ウイルスの増殖を抑えます。

抗ウイルス薬の種類

抗ウイルス薬は、治療対象の原因ウイルスによって、以下の5種類に分類されます。

  1. 抗ヘルペスウイルス薬
  2. 抗インフルエンザ薬
  3. 抗HIV薬
  4. 抗サイトメガロウイルス薬
  5. 抗肝炎ウイルス薬(B型肝炎、C型肝炎治療薬)

それぞれの抗ウイルス薬の働きや効果について見ていきましょう。

抗ヘルペスウイルス薬

抗ヘルペスウイルス薬は、ヘルペスウイルスのDNAの複製を防止する薬です。ヘルペスウイルスは、DNAの合成を邪魔されると増殖できません。

ヘルペスウイルスは、取り付いた細胞のなかで自身のコピーを作りながら、周囲の細胞に感染していきます。増殖に欠かせないのが、ウイルス自身のDNAのコピーです。抗ヘルペスウイルス薬は、ウイルスがDNAをコピーする行為を邪魔します。DNAのコピーを阻止すれば、ウイルスは増殖できないため、進行が抑えられます。

代表的な抗ヘルペスウイルス薬
  • アシクロビル(商品名:ゾビラックス錠)
  • 塩酸バラシクロビル(商品名:バルトレックス錠)
  • ビダラビン(商品名:アラセナA軟膏)
薬剤の種類
  • 内服薬
  • 外用薬
  • 注射薬
主な副作用
  • 下痢や吐き気などの胃腸症状
  • 発疹などの皮膚症状
  • めまいや眠気
  • 頭痛

抗インフルエンザ薬

抗インフルエンザ薬は、ノイラミニダーゼという酵素を阻害する薬です。インフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼがなければ増殖できません。

インフルエンザウイルスが増殖するときには、細胞のなかでノイラミニダーゼという酵素を出します。ノイラミニダーゼの役割は、ウイルスの運搬です。抗インフルエンザ薬は、ノイラミニダーゼのウイルスを運ぶ働きを邪魔します。ウイルスがいくら増えても、ほかの細胞に運ばれる仕組みが動いていなければ、細胞のなかに閉じ込められたままです。感染の拡大が避けられます。

代表的な抗インフルエンザ薬
  • オセルタミビル(商品名:タミフル)
  • リレンザ(商品名:ザナミビル)
  • イナビル(商品名:ラニナミビル)
薬剤の種類
  • 内服薬
  • 注射薬
主な副作用
  • 下痢や吐き気などの胃腸症状
  • 発疹などの皮膚症状
  • 呼吸困難

抗HIV薬

抗HIV薬とは、HIV(Human immunodefi ciency virus)に対して効果のある薬の総称です。HIVはエイズの原因となるウイルスで、人の免疫力を破壊します。抗HIV薬は、HIVウイルスが増殖する段階で邪魔をします。抗HIV薬は、以下の5段階で効果を発揮します。

  1. HIVウイルスが人間の細胞にくっつく
  2. ウイルスの膜と人間の細胞膜が一体化する
  3. 人間の細胞内でウイルスのコピーを作る
  4. コピーしたウイルスのDNAと、人間のDNAを入れ替える
  5. HIVに感染した細胞を量産する

HIVが細胞に取り付くステップから、コピーを量産するステップまで、ウイルスの増殖を抑えるのです。

抗HIV薬は、さらに以下の5種類に分けられます。

  1. 核酸系逆転写酵素阻害剤
  2. 非核酸系逆転写酵素阻害剤
  3. プロテアーゼ阻害剤
  4. インテグラーゼ阻害剤
  5. 侵入阻害薬

抗サイトメガロウイルス薬

抗サイトメガロウイルス薬は、ウイルスの増殖に必要な酵素(DNAポリメラーゼ)を阻害することで、サイトメガロウイルスの増殖を防ぎます。免疫が弱っている状態でサイトメガロウイルスに感染すると、肺炎や網膜炎などを発症する危険性があります。サイトメガロウイルスもヘルペスウイルスと同じように、ウイルスを増殖させるにはDNAの複製が必要です。

代表的な抗サイトメガロウイルス薬
  • デノシン(商品名:ガンシクロビル)
  • バリキサ(商品名:バルガンシクロビル)
  • ホスカビル(商品名:ホスカルネット)
薬剤の種類
  • 内服薬
  • 注射薬
主な副作用
  • 下痢や吐き気などの胃腸症状
  • めまい、不安などの精神神経症状
  • 腎機能障害
  • 白血球や血小板の減少などの骨髄抑制

抗肝炎ウイルス薬

B型肝炎やC型肝炎の治療にも、抗ウイルス薬が使われます。ここでは、B型肝炎の抗ウイルス薬とC型肝炎の抗ウイルス薬に分けて紹介します。

B型肝炎の抗ウイルス薬

B型肝炎ウイルス治療における抗ウイルス薬には、インターフェロンと核酸アナログ製剤があります。インターフェロンは、ウイルスへの免疫力を高めて、B型肝炎ウイルスの活動を抑え込む薬です。核酸アナログ製剤は、飲み薬でウイルスを直に攻撃して増殖を抑えます。

代表的なB型肝炎ウイルス治療薬
  • インターフェロン
  • 核酸アナログ製剤(商品名:ベムリディ錠など)
薬剤の種類
  • 内服薬
  • 注射薬
主な副作用(インターフェロン治療)
  • 発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛・関節痛などのインフルエンザのような症状
  • 核酸アナログ製剤では副作用はほぼありません

C型肝炎の抗ウイルス薬

C型肝炎ウイルス治療における抗ウイルス薬には、インターフェロンとDAAs製剤があります。インターフェロンは、C型肝炎ウイルスに対抗できるよう、人体の免疫力を高めます。一方、DAAs製剤はC型肝炎ウイルスを直接的に排除するのです。

代表的なC型肝炎ウイルス治療薬
  • インターフェロン
  • DAAs製剤(商品名:ハーボニー配合錠など)
薬剤の種類
  • 内服薬
  • 注射薬
主な副作用(インターフェロン治療)
  • 発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛・関節痛などのインフルエンザのような症状

抗ウイルス薬の薬剤耐性

抗ウイルス薬の薬剤耐性とは、これまで有効だったウイルス性感染症の治療薬が効かなくなることを言います。抗ウイルス薬のなかでも、抗HIV薬や抗インフルエンザ薬は、耐性ウイルスが生まれやすい薬剤です。

抗ウイルス薬の薬剤耐性の仕組み

ウイルスは、自身の見た目や構造を変えることで、抗ウイルス薬を無効化します。抗ウイルス薬は、ウイルスとぴったりと歯車のように合わさることで効果を示します。ウイルスは自身の見た目や構造を変えることで、抗ウイルス薬が細胞にくっつくことを防ぐのです。歯車の形が合わなければ当然はまることもないので、薬は効果を発揮できません。

抗HIV薬や薬インフルエンザ薬では薬剤耐性が発生する可能性が高い

抗ウイルス薬のなかで薬剤耐性が顕著なのは、抗HIV薬と抗インフルエンザ薬です。HIVウイルスとインフルエンザウイルスは、自身の性質を変化させる特徴があります。

病原ウイルスには、DNAウイルスとRNAウイルスの2種類があります。病原ウイルスがRNAウイルスだと、薬剤耐性が起こりやすいのです。RNAウイルスは、ウイルス自身で性質を変えられるため、ウイルスの変異も頻繁におきます。ウイルスの性質が変わってしまうと、元のウイルスに合わせて作られた抗ウイルス薬が効かなくなります。RNAウイルスに薬剤耐性が起こりやすいのは、ウイルス自体の構造に起因しているのです。

抗ウイルス薬のまとめ

抗ウイルス薬は、ウイルス性感染症の治療薬です。抗ウイルス薬にはウイルスの増殖を防止するタイプと、体の免疫力を強化させるタイプがあります。

2018年現在、市場に出ている抗ウイルス薬は抗ヘルペスウイルス薬、抗インフルエンザ薬、抗HIV薬、抗サイトメガロウイルス薬、抗肝炎ウイルス薬です。それぞれのウイルスに沿った働きをし、効果や副作用も異なります。

抗ウイルス薬の薬物耐性は、ウイルスが自身の見た目を変えることで発生します。薬剤耐性が発生しやすい抗ウイルス薬は、抗HIV薬と抗インフルエンザ薬の2つです。HIVとインフルエンザウイルスは、変異が起こりやすいRNAウイルスなので、薬剤耐性が発生しやすいです。