公開日
2017/10/30
更新日
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「子供が欲しいのに出来ない…もしかして原因は男性側にあるのでは?」このページを開いたあなたは、そう疑いはじめているのではないでしょうか?

2015年4月に厚生労働が行った男性不妊の調査研究の統計では、妊娠したいカップルが6組いればそのうち1組は不妊に悩んでいる、といわれています。

今回は不妊の要因のひとつ、「無精子症」について解説します。まずは無精子症の種類とその原因、症状について説明していきます。さらに、検査法や治療法、無精子症になっても妊娠ができるかどうかについても詳しく見ていきましょう。

無精子症ってどんな病気?

無精子症の原因は2種類あります

無精子症とは、射精された精液中に精子が全くない状態です。一般に100人中1人の割合で無精子症の男性がいます。無精子症には「閉塞性無精子症」「非閉塞性無精子症」の2種類があり、要因は異なります。それぞれ見ていきましょう。

閉塞性無精子症

閉塞性無精子症は、精路通過障害と呼ばれる症状のひとつです。精子の通り道に何らかの問題があって、精液のなかに精子が存在していない状態を指します。 精子は精巣で作られていますが、精子の通り道が塞がってしまっているため、精子と精液が混ざらず体外に精子が出てこない状態です。無精子症患者のうち15~20%ほどが、閉塞性無精子症の患者といわれています。

例えば、精巣上体炎や鼠径ヘルニア(脱腸)手術の後遺症で精子の通り道が塞がってしまっている症状が多くみられます。他にも、射精管が閉塞してしまっていることが原因として考えられます。

また、避妊目的でパイプカットを行った場合、閉塞性無精子症と同じ状態になります。再婚などでもう一度妊娠を希望する際は、治療が必要です。

精巣の大きさに問題がなく、ホルモン検査では正常値で、精管に塞がっている箇所があれば閉塞性無精子症と診断されます。

非閉塞性無精子症

非閉塞性無精子症は、造精機能障害と呼ばれる、精子の異常症状のひとつです。精巣に異常が起きているため、精液のなかに精子が存在してない状態を指します。精巣が正常な閉塞性とはここが大きく違います。非閉塞性はそもそも精子を作る精巣の機能自体に問題があり、精子が正常に作られていないため、精液にも精子が含まれません。無精子症患者のうち80%は、非閉塞性無精子症の患者と言われています。

考えられる原因として、以下のものが挙げられます。

【非閉塞性無精子症の原因】
先天性 染色体異常
遺伝子異常
後天性 抗がん剤治療
放射線治療
ムンプス精巣炎

ただし、明確な原因については判明していない疾患です。

無精子症は目立った症状がある?

無精子症といっても精液や性欲に変化はありません

「精子がないということは、精液の色は薄い?」「もしかして性欲が減る?」

無精子症の症状として、このようなイメージを持つ人は多いでしょう。しかし実際は、無精子症だからといって、精液や性欲に変化はありません。

そもそも「精子」は顕微鏡でしか確認できないものであり、精液と精子は別物です。匂いや色は「精液」側の原因であり、男性の体調や射精時のオーガズムの仕方よって変わります。そのため、精子をぱっと見ただけでは、無精子症かどうか判断できません。また、性欲の有無も無精子症には関係ないとされており、射精や性交も自然に行えます。

このように、無精子症は目立った症状がありません。もし不妊期間が1年以上続いているなら、精液検査を受けて男性側に不妊の原因がないか調べてみましょう。

無精子症の検査方法は?

無精子症の検査方法は2つあります

無精子症の検査方法は、大きく分けると2つあります。1つめは病院の産婦人科や泌尿科で検査する方法、2つめは自宅で精子検査(精液検査)キットを使って検査する方法です。

それぞれの検査方法について、詳しく見ていきましょう。

病院での検査

病院での精液検査は、一般的に施設内の「採精室」と呼ばれる専用の個室で行います。採精室は鍵をかけることができ、安心して精液を採取できるよう配慮されています。しかし、病院によっては採精室がなく、トイレで採精を求められることもあります。先にホームページなどを見て、病院内の設備を確認しておくとよいでしょう。

また、病院での検査でも、自宅で採取した精液を産婦人科に運ぶという方法もあります。しかし、できるだけ鮮度のよい精液でなければ、検査の精度も下がってしまいます。院外で精子を採取した場合には1~2時間以内に運ぶ必要があり、病院までの距離や時間を考えると院内で精液を採取するのがベターです。

検査費用は、保険適用でおよそ1000円、保険適用外で5000円からと病院によってまちまちです。詳しい費用は、検査を受ける病院に問い合わせてみましょう。

精子検査(精液検査)キット

「産婦人科に行き、そのうえマスターベーションまでするのは恥ずかしい」という方は、市販の精液検査キットを使ってみましょう。検査キットを使っても、精度の高い検査が受けられます。なかには、精子を専門とする検査機関に依頼している業者もあるのです。時間がない、病院が恥ずかしいという人には、検査キットがおすすめです。

もしも無精子症と診断されたら?具体的な治療法

閉塞性無精子症を治療する方法は、年齢によって2種類に分けられます

無精子症ってどんな病気?で説明したように、無精子症には「閉塞性」と「非閉塞性」の2種類があります。異常のある箇所が、閉塞性では「精子の通り道」、非閉塞性では「精巣」で異なるため、それぞれ治療法も異なります。

ここでは、「無精子症の治療目的は妊娠の成立」という考えを元に、不妊症の治療法として紹介します。

閉塞性無精子症の治療法

閉塞性無精子症を治療する方法は、年齢によって2種類に分けられます。年齢が35歳以下なら「顕微鏡下精路再建手術」を行えます。これは、精管の塞がってしまっている部分を手術用顕微鏡を使用して、もう一度繋ぎ直して正常な状態に戻す手術です。この手術を行う事で、手術後の自然妊娠率が通常とほとんど変わらないほど回復します。また、女性への手術行為もないので、流産のリスクも避けられます。くわえて、手術費用も軽減できるのです。

次に、女性側にも何らかの不妊原因があるときや、年齢が35歳以上の場合はMESA(精巣上体精子回収法)を行います。これは顕微鏡下精路再建手術のように「精管を正常通りに戻す」手術ではなく、顕微授精を行う不妊治療に当たります。精巣と精管の間にある精巣上体という部位から精子を採取し、顕微授精を行う方法です。手術は全身麻酔または局所麻酔で行い、手術時間も30分ほどで当日帰宅もできます。

非閉塞性無精子症の治療法

非閉塞性無精子症で原因がホルモン異常の場合は、ホルモン剤を注射すれば精子を精液中に出現させられます。また、「Micro-TESE」という治療法もあります。これは、精巣を切り開いて精子を採取する治療法です。Micro-TESEは、精液中に精子が認められない無精子症であり、かつ閉塞性でないと診断された場合に行われます。精子がいる精細管を摘み取り、正常な精子を見つけて体外受精させる方法です。

精子がなくても子供ができる!?「ROSI」という治療法

無精子症でも精子細胞さえあれば子作りはできる

「ROSI(円形精子細胞卵子内注入法)」とは、非閉塞性無精子症の患者でも、精子細胞さえあれば子供を作れる不妊治療です。

上述したとおり、非閉塞性無精子症に対しては、Micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子回収法)によって不妊治療を行います。ただ、Micro-TESEを行っても、精子が見つけられない場合もあります。近年までは、正常な精子が見つからなければ、男性は自分の子供を諦めるしかありませんでした。男性ドナーの精子を用いる人工授精のAIDか、養子を迎えるかの選択肢しかなかったのです。

しかし、北九州市にある「セントマザー産婦人科」の田中温医師により、ROSIが確立されました。ROSIは、睾丸のなかにある「精子になる前の精子細胞」と卵子とを顕微受精させる方法です。ここの治療法を用いれば、正常な精子を見つけられなかった無精子症患者でも、自身の精子細胞で子供を作れます。

セントマザー産婦人科では、この治療法によって2015年5月までに150名以上の赤ちゃんを生み出すことに成功しているのです。また異常児のリスクに関しては、正常妊娠の場合と大差がないという研究結果があります。これまで「精子がない」と診断されると、自分の遺伝子を持つ子供ができない状態でした。しかし、ROSIの確立により、世界中の不妊に悩むカップルに希望を与えることができたのです。

ROSIの費用は高額

ROSIの費用は病院により異なりますが、目安は以下のとおりです。

治療法 治療費用
体外受精 約20~50万円
顕微授精 約25~60万円

表にある費用に加え、凍結融解胚移植(受精卵を子宮に戻す方法)に約10~20万円ほどの費用がかかります。その他の雑費も含めると、全体で100万円ほどかかると考えておきましょう。

体外受精や顕微授精といった「特定不妊治療」に該当するものは、保険が適用されません。すべて自費診療となるので、経済的な負担が大きくなってしまいます。そのため、国と自治体が助成金制度を設けているのです。助成内容は、体外受精・顕微授精1回に対して15万円までを助成するというもの。自治体によって申請の期間や方法が異なるので、事前に地域の情報を調べておきましょう。

夫婦で話し合って計画的な子作りを

以上のように、現在では精子になる前の円形精子細胞によって受精できるほど、医学は進歩しています。無精子症だからといって諦める必要はありません。

ただし、最新の不妊治療に関しては保険が適用されないこともあり、夫婦共に経済的な負担が大きいです。また、手術などにより肉体と精神に負担もかかります。治療に挑む期間などについても夫婦間で話し合いが必要となるでしょう。

無精子症のまとめ

無精子症は、男性の100人に1人がかかる病気で、決して珍しい病気ではありません。しかし、無精子症は自覚症状がなく、射精や性交も自然に行えます。そのため多くの場合、「妊娠しない」という具体的な問題が生じてから、精液検査を受けてようやく発覚するのです。

無精子症になってしまうと、自然妊娠はほぼ不可能です。治療しないまま子作りに励んでも、時間だけが過ぎていきます。不妊で悩んでいる夫婦には、年齢的な問題もつきものです。早期治療に取り組むためにも、自分が無精子症であるということを早い時点で知っておくことが大切です。

ただ、「いきなり病院に行くのはやっぱり嫌だ」という男性も多いでしょう。その場合は、まず自宅で精液検査キットを使ってみることをおすすめします。キットでの検査で異常がわかった場合は、病院で本格的な検査を受けるようにしてください。

無精子症にもさまざまな原因とそれに沿った治療法があります。かつて「成す術がない」と言われていた非閉塞性無精子症でも、現在は子どもを作れるようになりました。

不妊治療においては「諦めないこと」が最も大切であるといえるでしょう。

子供がなかなかできずに悩んでいるなら、まずは自宅でできる精液検査キットを使ってみましょう。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「無精子症」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。