公開日
2018/02/19
更新日
読了時間の目安
4分00秒で読めます

「細菌」は目に見えないほど小さな生物の一種です。感染症を引き起こす原因である一方、人の生活や健康に良い働きをする側面もあります。

細菌はウイルスと混同されがちですが、性質や病気を起こす仕組みは大きく異なります。今回は、そんな病原体の1つである細菌がテーマです。

このページでは、まず細菌の特徴と、感染症を引き起こす仕組みについて解説していきます。次に、細菌による感染症の治療法と予防法も紹介します。

細菌はどんな生き物?

細菌とは微生物の一種です。様々な呼び方があり、真正細菌やバクテリアともいいます。地球上のあらゆる場所に存在し、有機物を分解することで自然環境を循環させています。細菌は人間の体にも住み着いており、人体に有益な働きをしている一方、感染症の原因にもなるのです。細菌とはいったいどのような生き物なのか見ていきましょう。

細菌の構造

細菌は、1つの細胞で成り立っているため、単細胞生物と呼ばれます。たくさんの細胞で体がつくられている人間と比べて、非常にシンプルな構造をしています。

細菌の分類

細菌は構造によってグラム陽性菌とグラム陰性菌の2種類に分けられます。2つの違いはDNAを覆う壁(細胞壁)の違いです。

細菌の構造的な特徴を示すものは、細胞膜の外側にある細胞壁です。細胞壁によって、細菌は自分の形を維持しています。細胞壁の材質は、ペプチドグリカンというアミノ酸と糖です。細胞壁を一層だけをもつ細菌を、グラム陽性菌と呼びます。細胞壁と細胞壁の外側に脂質と糖でできた膜の二層をもつ細菌を、グラム陰性菌と呼びます。

細胞の形状

細菌は形によって球菌桿菌(かんきん)らせん菌の3種類に分けられます。見た目が丸い球状、長方形の棒状、ぐるぐるねじれているらせん状が存在するのです。

細菌は上の分類に加えて、複数の菌が組み合わさったり、様々なバリエーションがあります。細菌のなかには、芽胞(がほう)と呼ばれる殻をつくるものや、積極的に移動するための線毛(せんもう)を持つものも存在します。形状の違いは、化学や医学の分野で、細菌の種類を判別するのに利用されるのです。

細菌が増える仕組み

細菌は、有機物を分解して得たエネルギーで分裂します。多くの生物は、取り入れた有機物を分解するときに酸素を使います。しかし細菌の場合、酸素を使わずに有機物を分解できる種類もいるのです。細菌は増殖のために酸素を使う好気性菌と、酸素を必要としない嫌気性菌に分かれます。さらに、好気性菌と嫌気性菌は以下のように分類されます。

【好気性菌と嫌気性菌の分類】
大分類 小分類 特徴
好気性菌 偏性好気性菌 酸素で増殖
微好気性菌 低濃度の酸素で増殖
通性嫌気性菌 酸素で発育
嫌気性菌 偏性嫌気性菌 大気中では死滅
耐酸素性細菌 大気中でも生存

嫌気性菌は酸素を使わず、硝酸や炭酸、鉄などからエネルギーを得て増殖します。細菌は動物の死骸や排泄物などの有機物を分解し、自然環境の循環に大きな役割を担っています。このことから。細菌は「分解者」とも呼ばれるのです。

細菌とウイルスの違い

細菌とウイルスの大きな違いは増殖の方法です。両者は「病気の原因」としてひとくくりにされがちですが、体の構造や機能が異なります。

細菌は増殖のために代謝をおこないます。代謝とは、外界から栄養を取り入れ、エネルギーに変える化学反応のことです。代謝で得たエネルギーを使って、分裂し、数を増やしていきます。一方で、ウイルスは代謝機能を持たず、自分でエネルギーを作ったり、増殖したりできません。その代わり、ウイルスは生物の細胞に寄生し、細胞が分裂する機能を横取りして自分のコピーを複製します。

人を助ける細菌

細菌は様々な形で人間と関わりあっています。私たちの食べ物に含まれる細菌や、人間の体内に住む細菌など様々です。

発酵食品は、細菌がデンプンやタンパク質を分解することで、風味がつく、保存性が高まるなどのメリットがあります。普段から体内にいる細菌は常在菌と呼ばれています。常在菌は、胃や鼻孔、皮膚の上や口のなかなど、いたるところに存在します。数がもっとも多いのは腸内で、健康維持に貢献する腸内の細菌は善玉菌と呼ばれています。常在菌は病原体の侵入を防いだり、人体が作れない栄養素を作るなどの役割を担っており、人が生きていくには不可欠な存在なのです。

感染症を起こす細菌

病原性を持った細菌は、感染症を引き起こします。細菌は増殖しながら細胞を破壊したり、毒素を出したりして、宿主の体をむしばんでいくのです。

【代表的な病原細菌】
細菌 感染症
グラム陽性菌 肺炎球菌
  • 肺炎
  • 髄膜炎
黄色ブドウ球菌
  • 食中毒
  • 髄膜炎
  • 敗血症
結核菌 結核
淋菌 淋病
ジフテリア ジフテリア
ボツリヌス ボツリヌス症
グラム陰性菌 赤痢菌 細菌性赤痢
トレポネーマ 梅毒
カンピロバクター
  • カンピロバクター症
  • 食中毒
O157 食中毒
サルモネラ
  • 腸チフス
  • 食中毒
クラミジア
  • 性器クラミジア
  • クラミジア肺炎
マイコプラズマ マイコプラズマ肺炎

なかでも変わった細菌は、マイコプラズマとクラミジアです。マイコプラズマは、細菌でありながら細胞壁を持ちません。クラミジアはウイルスと似たような性質をもっています。感染症を引き起こす細菌のなかにも、さまざまな種類があるのです。

人間の体は免疫機能を備えており、体内に侵入した細菌を排除しようとします。免疫機能が細菌と戦った結果、炎症や発熱などの症状があらわれるのです。外から侵入するだけでなく、体内の常在菌が免疫の低下によって害を及ぼすこともあります。

細菌感染症の治療法

細菌感染症の治療には飲み薬が使われます。病院で検査を受けることで、細菌の性質に合わせた治療が行えます。

薬で細菌を体から取り除く仕組み

細菌感染症の治療には抗菌薬が使われます。抗菌薬の作用は細菌を死滅させるものと、細菌の成長、増殖を抑えて、自然消滅させるものの2種類に分かれます。

細菌を死滅させる作用

  • 細胞壁の合成を妨害
  • 細胞膜の機能を妨害

細菌は、細胞壁と細胞膜に包まれていることで、自分の形を保っています。これらを妨害したり、機能不全にすることで、細菌は体を維持できず、崩れて死滅するのです。人間の細胞は細胞膜だけで覆われているため、細胞壁に作用する薬は細菌だけを攻撃します。

細胞の成長、増殖を阻害する作用

  • 核酸の合成を妨害
  • タンパク質の合成を妨害
  • 葉酸の合成を妨害

細菌の成長に必要不可欠な核酸、タンパク質、葉酸の3つを妨害します。細菌を含む多くの生物は、リボソームという器官が核酸(DNA)から指示を受けることでタンパク質を合成します。葉酸はビタミンB9とも呼ばれ、代謝に必要な物質です。これらを機能不全にすることで、細菌は成長も分裂もできなくなり、だんだん数を減らし、やがて体内から消えるのです。

増えつつある「薬剤耐性菌」

細菌はときおり、薬剤耐性菌に変化します。薬剤耐性菌が生まれると抗菌薬が効かなくなるため、感染症の治療ができなくなってしまうのです。

耐性菌が生まれる原因は、抗菌薬の不適切な使用です。薬を飲むのを途中でやめたり、薬を飲む量が決められた用量より少なかったりすると、一部の細菌が体内で生き残ってしまいます。生き残った細菌は、自身の体の構造を変えたり、薬剤を分解する力を身につけたりするのです。さらに、細菌は他の菌の遺伝子を取り込む性質があります。そのため、薬剤に耐性を持った遺伝子が体内で広まっていき、耐性菌がどんどん増えてしまうのです。

予防策は衛生管理と免疫の維持

細菌感染症を防ぐうえで重要なのが、感染そのものを未然に防ぐこと、そして体の免疫力を保つことです。細菌は口や鼻を通して体に入り込むので、侵入経路を断つことで予防できます。また、細菌に感染してしまっても、免疫力がしっかりと働いていれば発症を抑えられるのです。

感染を未然に防ぐ

細菌が付着している物に触れないこと、体に入れないことが大切です。また予防策としてマスクの着用も効果的です。

こまめな手洗いで感染を防ぐ

不特定多数の人間が触れるものには、細菌が付着している可能性があります。手洗いを心がけることで、細菌を予防できます。

吊革や手すりなど、誰でも触れられる公共物は、特に注意が必要です。汚染された物に触れた手で口や鼻を触ることで、細菌が体内に入ってしまうのです。細菌が付着した飲食物をとることも、感染の大きな原因です。感染のリスクを下げるため、外出から帰ったあとや調理前など、こまめな手洗いを心がけましょう。調理の際は、食品をしっかり加熱することで細菌を死滅させられます。

マスクを着用して感染を防ぐ

感染者のせきやくしゃみのしぶきには細菌が含まれています。しぶきとともに飛散した細菌を防ぐには、マスクが有用です。

そもそも、せきやくしゃみと一緒に飛んだ細菌は、ほとんどが地面に落ちます。万が一しぶきを受けても、唾液の水分をまとっている分だけ粒が大きくなっているため、マスクでガードできます。ただし、空気中に浮遊するような、粒子の小さい細菌(結核菌など)は、マスクでも防げません。マスクで大抵の細菌は防げますが、例外もあるので過信は禁物です。

免疫力で細菌を撃退する

細菌を撃退する免疫には、自然免疫と獲得免疫の2種類があります。人間の体にもともと備わっている免疫と、病気を克服したときに得られる免疫です。

自然免疫を高めて細菌を撃退する

人間の体には免疫機能が備わっており、体内に侵入した異物を排除してくれます。体がもともと持っている免疫を自然免疫といいます。自然免疫は不健康な生活で機能が低下します。睡眠不足で体が休まらなかったり、バランスの悪い食事で栄養がかたよったりすることで、免疫力が下がるのです。日ごろから体を気づかい、健康な生活を心掛けることで、細菌感染症を予防できます。

獲得免疫を得て細菌を撃退する

一部の細菌感染症は、予防接種で獲得免疫を身につけることで防げます。人間の体は異物が侵入すると、その対処法を学習します。病原体に感染したことで体が覚える免疫機能を、獲得免疫といいます。獲得免疫の好例は、予防接種に使われるワクチンです。ワクチンには毒性を弱めた病原体が含まれています。無害化された細菌を体に入れることで、獲得免疫ができ、実際に感染しても細菌を撃退できるのです。

細菌のまとめ

細菌はバクテリアとも呼ばれる微生物の一種で、有機物を分解して生きています。大きさや増殖の方法において、ウイルスとは大きく異なる存在です。細菌は発酵食品を作るために利用されたり、体内の環境を整えたりと、人間にとって不可欠な存在です。一方で、感染症を引き起こす、有害な細菌もいます。

細菌感染症の治療には抗菌薬が使われます。細菌が薬に耐性をもつ場合もあるため、必ず用法、用量を守って服用します。細菌が付着したものや飲食物、感染者のせきやくしゃみが主な感染経路です。こまめに手を洗う、食べ物にはしっかり火を通すといった心がけが、感染を防ぎます。また、免疫が正常に働いていれば、体内に侵入した細菌を撃退できます。一部の細菌はワクチンも有効です。日ごろから衛生管理と健康な生活を心がけ、細菌感染症を防ぎましょう。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「細菌」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。