公開日
2017/11/07
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もし、あなたがHIVやAIDSについて少し調べてことがあるなら、「CD4」という単語に見覚えがあるかもしれません。

CD4とは、簡単に言うと白血球に含まれる免疫系細胞やその数値のことです。白血球は「病気から身体を守る細胞」として認識しているかと思います。この免疫細胞が少なくなると、日和見感染やAIDSにかかるリスクが上がります。

少し難しい話も出てきますが、より快適で健やかな生活を送るためにも、CD4について見ていきましょう。

「CD4陽性T細胞」と「CD4陽性Tリンパ球数」

CD4陽性細胞は体のなかでは外敵から身を守る防御機能の担当しています

CD4陽性T細胞は、からだを守るうえで最も重要な役割を果たしています。

CD4陽性T細胞は、わたしたちの血液の成分である白血球の1つ、リンパ球のなかに存在します。白血球は、からだのなかでは外敵から身を守る防御機能の担当です。白血球にもいろいろな防御機能を発揮する種類(好中球、好酸球など)があります。そのなかでも、外敵の侵攻に対して主役級の役割を果たすのがT細胞です。

さまざまな白血球の種類

T細胞(CD4陽性T細胞を含む)とB細胞はワンセットで構成されています。それぞれの役割を例えるなら、T細胞が指示を出す司令官、B細胞が敵を攻撃するミサイルです。T細胞がなくなるということは、外敵の侵攻に対して指示を出す司令官がいないことと同じです。司令官がいなければ、からだの防御機能が働かないため、ウイルスや細菌に感染しやすくなってしまいます。

CD4陽性T細胞は、白血球のなかに存在する大切な「司令官」なのです。

CD4陽性T細胞とCD4陽性Tリンパ球数の違い

CD4に似た言葉で「CD4陽性T細胞」「CD4陽性Tリンパ球数」があります。いずれも「CD4」というフレーズが付く言葉ですが、意味はまったく異なります。

CD4陽性T細胞は上にも記載した通り、免疫反応への司令官の役目を担っている"細胞"のことです。対して、CD4陽性Tリンパ球数は、HIVによって破壊された宿主の免疫応答能の"残存量"を示します。その時点における病態の程度を把握する"数値"と言えます。

言葉はよく似ていますが、それぞれが指すものは異なります。2つの「CD4」を混同しないようにしましょう。

HIVウイルスに壊される免疫機能

HIVウイルスはCD4陽性T細胞に感染し、破壊します。その結果、HIVに感染するとCD4陽性T細胞はどんどん破壊されていき、免疫力が落ちていきます。

前述の通り、CD4陽性T細胞は、ウイルスや細菌を攻撃する司令官のような役割を担っています。その指示を受けた他の細胞が、ウイルスや細菌を殺傷するのです。これが体の免疫力の要といってもよいでしょう。

しかし、HIVウイルスは免疫力の要であるCD4陽性T細胞に感染します。すなわち、HIVウイルスはからだ防衛隊の司令室を狙って攻撃してくる、というわけです。免疫機能がHIVウイルスに壊され、免疫力が下がると、日和見感染症にかかる恐れがあります。

HIVウイルスに感染している状態で、かつ厚生労働省が定めた以下の日和見感染症のいずれかを発症した場合エイズ(AIDS)と診断されるのです。

【厚生労働省が指定する23種の指標疾患】
細菌感染症
  • 化膿性細菌感染症
  • 再発性サルモネラ菌血症
  • 活動性結核
  • 非結核性抗酸菌症
ウイルス感染症
  • カンジダ症(関連ページ:性器カンジダ症)
  • クリプトコックス症(肺以外)
  • コクシジオイデス症
  • ヒストプラズマ症
  • ニューモシスチス肺炎
真菌症
  • サイトメガロウイルス感染症
  • 単純ヘルペスウイルス感染症(関連ページ:性器ヘルペス)
  • 進行性多発性白質脳腫
原虫症
  • クリプトポリジウム症
  • トキソプラズマ脳症
  • イソスポラマ症
腫瘍
  • カポジ肉腫
  • 原発性脳リンパ腫
  • 非ホジキンリンパ腫
  • 浸潤性子宮頸癌
その他
  • リンパ性間接性肺炎/肺リンパ過形成・非定型抗酸菌症
  • 反復性肺炎
  • HIV脳症
  • HIV消耗性症候群

ここまで、身体の免疫機能の要である「CD4陽性T細胞」をメインに説明してきました。しかし、この細胞はHIVウイルスにかかると減少し、免疫力が下がります。

次からは、その免疫力の「今」が数値でわかる「CD4陽性Tリンパ球数」について、詳しく解説していきます。

CD4陽性Tリンパ球数はHIV療法を決定する重要指標

国立国際医療センター「エイズ治療・研究開発センター」の発表では、健康成人のCD4陽性Tリンパ球数は700~1300/μLとされています。

CD4陽性Tリンパ球数は、「今どれだけ体に免疫力があるのか」を示す数値です。CD4陽性Tリンパ球数は、検査の数値が高ければ高いほど免疫力があるとされています。低くなると免疫力が弱くなり、日和見感染症を発症する危険が高まるのです。

国立国際医療センター「エイズ治療・研究開発センター」の発表では、健康成人のCD4陽性Tリンパ球数は700~1300/μLとされています。しかしHIVに感染すると200/μLを下回ることがあります。この200/μLを下回る状態を「免疫不全」と呼んでおり、日和見感染症を発症しやすい状態になります。

そのため、CD4陽性Tリンパ球数は抗HIV療法をはじめるにあたって、もっとも大切な指標です。ただ、測定値は常に一定ではなく、誤差があり変動します。そのため、前後数回の検査データを見て判定されます。

CD4陽性Tリンパ球数測定・頻度の目安は下記の通りです。

治療の段階 CD4陽性リンパ球数測定のスパン
抗HIV療法の開始前
  • 初診時(HIVウイルス感染確認後の診察)
  • 抗HIV療法の開始が延期される場合、1カ月~3カ月ごと
抗HIV療法の開始後
  • 抗HIV療法開始から1カ月~3カ月ごとに測定する。
    なお、CD4陽性リンパ球数が200/μLを超えるまでは毎月の測定を推奨
抗HIV療法を変更した場合
  • 1カ月~3カ月ごと

CD4リンパ球数の低下で感染?注意したい日和見感染症

CD4陽性リンパ球が200/μLを下回った場合は日和見感染症のリスクも当然高まります。200/μLを下回った場合に気をつけたい日和見感染症の種類と対応する定期検査、検査スパンをまとめました。

【日和見感染症の種類と対応する定期検査、検査スパン】
注意すべき日和見感染症 定期検査 CD4リンパ球数 検査スパン
  • サイトメガロウイルス網膜炎
眼底検査 200/μL以上 必要時
200/μL未満~100/μL以上 半年に1回
100/μL未満~50/μL以上 3カ月に1回
50/μL未満 1カ月に1回
  • ニューモシスチス肺炎
  • 結核
胸部レントゲン検査 200/μL以上 1年に1回
200/μL未満 2カ月~3カ月に1回
  • 結核
ツベルクリン判定 200/μL以上 2年に1回
  • 口腔内カンジダ症
  • 歯肉炎
歯科検診 200/μL以下 必要時

そもそもCD4陽性Tリンパ球数はどうやって測定するの?

このCD4陽性Tリンパ球数を具体的にどうやって測るのか?と疑問に思ったかもしれません。CD4陽性Tリンパ球数は、健康診断などの一般的な血液検査の項目には含まれません。白血球に関わる検査項目は、白血球の数くらいです。CD4陽性Tリンパ球数の検査は、実際にHIVウイルスに感染していると発覚してから個別で検査することが多いです。

ちなみに、CD4陽性Tリンパ球数を知るには下記の3つが必要です。

  • 白血球数(WBC)
  • リンパ球の白血球全体における割合
  • CD4陽性Tリンパ球のリンパ球全体における割合

この測定値からCD4陽性Tリンパ球数を算出します。

「HIVの陽性反応が出ていないと調べられない数値なの?」と疑問を持っている方もいるでしょう。もちろんそんなことはなくて、非HIV感染者の方でもCD4陽性Tリンパ球数を調べることは可能です。

CD4陽性Tリンパ球数を測定する専門検査「血液ドック」

「血液ドック」という血液に特化した人間ドックはご存知でしょうか?「ドック」という言葉で大掛かりな健診を予想してしまいますが、簡単な血液検査で自分の体調で気になる項目、調べたい項目を自由に選択して検査できます。ここでCD4陽性Tリンパ球数が把握できます。もし、ご自分の免疫力を知りたいという方は人間ドックを受診してみてはどうでしょうか?検査費用は保険対象外で、3万円~5万円と高めです。

HIVウイルスの進行速度や治療過程を知るだけでなく、自身の免疫力を知る上でもCD4陽性Tリンパ球数はとても大切です。健康な状態でも、自分がどの程度の数値なのかを知っておけば、もしも感染していた場合などの早期発見に役立つでしょう。

CD4陽性Tリンパ球数は回復する

CD4陽性Tリンパ球数が減少していても、治療によって数値は回復できる

では、一度HIV感染にかかってしまうとCD4陽性Tリンパ球は減るだけで回復は見込めないのでしょうか?結論から言うと、CD4陽性Tリンパ球数は回復します。2017年現在では、「いつAIDSを発症させてもおかしくない」というくらいCD4陽性Tリンパ球数が減少していても、治療によって数値は回復できるようになりました。

HIVウイルスにかかったまま何も対処もせず放置しておくと、CD4陽性Tリンパ球数は減り続けます。1996年の段階でピッツバーグ大学の医学部がまとめた研究結果によれば、「(CD4陽性Tリンパ球数が減り続けると)3年以内に30%以上の確率でAIDSが発症する」という報告がありました。

1997年以降、抗HIV療法は飛躍的に進化し、AIDSは長期にわたって管理できる慢性疾患となったのです。それは抗HIV療法によりCD4陽性Tリンパ球数が回復し、AIDS発症を未然に防げていることが大きな理由です。

治療を開始する時期が早ければ早いほど生存率があがる

抗HIV療法でCD4陽性Tリンパ球数を回復させるポイントは、とにかく早めに治療を開始することです。治療を開始する時期が早ければ早いほど、回復が早まり、生存率があがります。

治療を開始した後のCD4陽性Tリンパ球数は、開始前の数値が350/μL以上とそれ未満では大きな差があります。200/μLから349/μLで治療を開始した場合、CD4陽性Tリンパ球数は正常域まで回復しにくいのです。

CD4陽性Tリンパ球数が一定の数値以下になると死亡率が高まる

北アメリカと国内の2つの調査報告でも、「早めに治療をはじめた患者の方が、生存率が高まる」という結果が出ています。

「NA-ACCORD」という、北アメリカで行われた大規模なAIDSコホート研究(※)では、以下2つのグループに分けて研究をしました。1つめのグループでは、CD4陽性Tリンパ球数が351~500/μLの時点で抗HIV療法による治療を開始。2つめのグループでは、CD4陽性Tリンパ球数が350/μL以下になるまで、治療を開始する時期を遅らせました。この2つのグループを比べると、後者のほうが死亡率が高かったのです。

また、日本国内のデータは、「HRD共同調査」が調査・報告しています。HRD共同調査とは、すでに医療機関で使用されている、HIV感染症の治療薬(関連の疾患含む)について、安全性や有効性を調査している組織です。HRD共同調査が行っている調査でも、CD4数が350/µL以上で治療を開始したグループは、350/µL未満で開始したグループに比べて生存率が高かったという研究結果が出ています。

CD4陽性Tリンパ球数の数値も、350/µL以上で抗HIV療法を受けた人は、6年後には700/µL以上という正常値まで回復しています。

以上のことから、HIV感染が発覚してから、いかに早く治療を行うかの重要性が理解できたと思います。早い段階から治療を行えば、健常者と同じCD4陽性Tリンパ球数まで回復し、普段と変わらない生活を送れます。もしも自分に感染の疑いがあると感じる人は、HIV検査をおすすめします。

※コホート研究:特定の地域や集団に属する人々を対象に、長期間にわたってその人々の健康状態と生活習慣や環境の状態など、さまざまな要因と研究対象との関係を調査する研究

CD4のまとめ

CD4陽性T細胞は、免疫反応への司令官の役目を担っている細胞のことで、「CD4陽性Tリンパ球数」は「今どれだけ体に免疫力があるのか」を示す数値です。また、HIVウイルスとCD4陽性Tリンパ球数の関係性において、CD4陽性Tリンパ球数の数値が下がれば下がるほど日和見感染症のリスクが増える可能性があります。CD4陽性Tリンパ球は350/µL以上の状態から抗HIV治療を行うと正常値にまで回復可能であり、早く始めれば始めるほど良いという研究結果も出ています。

抗HIV療法も日々進化しています。HIV感染症も今では管理可能な慢性疾患となっており、薬さえちゃんと飲んでいれば健常者と変わらない生活ができます。

しかし、HIVに感染しないことが最も大切です。

HIV感染のおおもとの感染は性交が多いです。まずは安全な性生活を心掛けることが大切です。万が一「HIVに感染したかも?」という懸念を抱いた場合は、ただちに病院で検査を受けましょう。HIVへの感染が判明しても、早期の抗HIV療法によって、健常者並みの免疫力が取り戻せます。ポイントになるCD4陽性Tリンパ球数の値は、回復が期待できる350/µL以上です。しかし、抗HIV療法が手遅れになると、その後の生活も大きく変わります。日和見感染症のリスクを常に考えないといけなくなるのです。

そうならないためにも、日頃からHIV感染しないよう、安全な性生活を心掛けてください。

また、不安なときも自身の判断で自分は大丈夫と思わず、医療機関でHIVの検査を受けてみましょう。それがあなたとあなたのパートナーの安全を守ることになります。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「CD4」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。