公開日
2017/12/06
更新日
読了時間の目安
4分30秒で読めます

軟性下疳(なんせいげかん)は性病・性感染症(STD)のひとつです。

2000年以降、日本国内ではあまり見られない病気ですが、海外渡航者が日本に持ち込むケースが見られます。また、海外からの旅行者が増えており、外国人との交流も盛んなため、国内で感染する可能性もゼロではありません。

このページでは、軟性下疳についての詳しい症状やその原因、感染経路を解説します。また、治療方法や予防策についても、理解を深めておきましょう。

軟性下疳の原因と症状

軟性下疳はアフリカや東南アジアや南米などの地域で発生します

軟性下疳(なんせいげかん)とは、軟性下疳菌(ヘモフィルス・デュクレイ)に感染することで引き起こされる性病・性感染症(STD)です。軟性下疳は、もともとアフリカや東南アジア、南米などの地域に発生する病気です。

原因は軟性下疳菌への感染

軟性下疳の原因は、ヘモフィルス・デュクレイ(軟性下疳菌)と呼ばれる細菌への感染です。感染者の病変部に粘膜が接触すると、ヘモフィルス・デュクレイに感染することで、軟性下疳が引き起こされるのです。

軟性下疳にかかると、性器のまわりに激しい痛み

軟性下疳の感染経路は、感染者の病変部との接触です。軟性下疳にかかると、病変部の皮膚や粘膜は深く傷ついたり、一部がくずれ落ちたり、ただれたように(潰瘍)変化します。感染が疑われる行為は性行為全般です。オーラルセックスも含まれます。患者が口のなかに軟性下疳を発症している場合は、潰瘍部に触れるような激しいキスでも感染します。

軟性下疳は、熱帯・亜熱帯地方の発展途上国でよく見られる病気です。日本国内での感染例は、近年ではほとんどありません。軟性下疳菌は生命力が弱く、日本ほど衛生管理がしっかりしていれば流行しないのです。衛生管理の行き届いていないアフリカや東南アジア、南米をはじめとした発展途上国では、現在でもメジャーな性感染症として知られています。

軟性下疳が流行しない理由に、感染の自覚症状がわかりやすいという点もあります。軟性下疳は潜伏期が短く、激しい痛みなどの自覚症状があります。痛みはじめたら性交も不可能なくらいの激痛が続くため、患者はすぐに病院に駆け込みます。無自覚で他人にうつしてしまうことは少ないのです。

症状は性器まわりの激痛

軟性下疳にかかると、性器のまわりに激しい痛みがあらわれます。

軟性下疳に感染すると、2日間から7日間くらいの潜伏期間を経て、症状があらわれます。最初の症状は、生殖器のまわりにできる、小さな赤いこぶです。こぶは徐々に膿んで黄色くなり、潰れてえぐれたり、ただれたり(潰瘍)します。皮膚がえぐれた潰瘍部分は、激しい痛みと出血があります。男女ともに症状はほぼ同じです。

ふとももの鼠径リンパ節に炎症が起こります

最初の症状からさらに7日間から2週間くらいが経つと、ふともものVライン近く(鼠径リンパ節)に炎症が起こります。股関節のあたりには激痛が走り、歩行すら困難な状態になります。また、口のなかで軟性下疳菌に感染した場合は、口のなかに小さな潰瘍ができます。

軟性下疳の検査

軟性下疳の診断は医師が視診や触診をして感染を判断します

軟性下疳は、病変部に特徴がある、見た目が分かりやすい病気です。診断では医師が直接、視診や触診をして感染を判断します。診断や検査の費用は、およそ3,000円から10,000円が相場です。

検査方法は視診や触診

軟性下疳の感染を疑ったら、まずは検査で確かめてみましょう。現在、自宅で軟性下疳の検査ができるキットなどはありません。医療機関での診察が必須です。軟性下疳に感染すると、梅毒やHIV感染症を併発する可能性もあるので、放置せずに病院へいきましょう。

軟性下疳は、視診や触診で診断されます。皮膚表面のただれや傷、痛みなどが特徴的な疾患なので、専門医ならば一目でわかります。病原菌を見つける検査もありますが、日本国内では検査ができる機関がないため、行われていません。

軟性下疳に感染した場合、梅毒トレポネーマも併発している可能性が考えられます。したがって、梅毒の検査も同時に行わなければなりません。また、軟性下疳はHIV感染を助長する原因になることから、HIVの検査も推奨されます。

検査費用は保険で3000円くらい

軟性下疳の診察費用に加え、梅毒やHIV感染症の検査費用がかかることがあります。

軟性下疳だけなら、視診と触診で診断できます。軟性下疳に感染すると、梅毒とHIVの検査も医師から受けるようすすめられます。すべての検査費用をあわせると、通常の診察代に加え、性病の検査費用がかかります。性病の検査費用は一般的に3,000円から10,000円程度です。保険が適用されるなら、金額の3割を負担します。軟性下疳や梅毒、HIVの検査費は保険が適用されるかどうかによって価格が変わります。事前に医療機関に問い合わせてみましょう。

軟性下疳の治療

軟性下疳の治療は、抗生物質を使った薬物療法が行われます

軟性下疳の治療では、抗菌薬(抗生物質)を使った薬物療法が行われます。発症すれば強い痛みがでるため、一日も早い治療を心がけましょう。

抗菌薬による薬物療法

軟性下疳の治療には抗菌薬(抗生物質)が有効とされています。具体的な治療法は、抗菌薬の内服や筋肉注射です。皮膚の潰瘍部分には、抗菌薬の軟膏を塗って治療します。

筋肉注射

筋肉注射に使われる抗菌薬は、ペニシリン系のセフトリアキソン(商品名:ロセフィン)です。軟性下疳の治療では、1回の注射で、セフトリアキソン250mgを使用すれば回復に向かいます。セフトリアキソンの詳しい内容は淋菌感染症に効く抗菌薬で紹介しています。

飲み薬

軟性下疳の治療に用いられる飲み薬は、下の3種類の抗菌薬(抗生物質)です。

  • アジスロマイシン(商品名:ジスロマック)
  • シプロフロキサシン(商品名:シプロキサン)
  • エリスロマイシン(商品名:エリスロシン)

それぞれ特徴を見ていきましょう。

アジスロマイシン

アジスロマイシンは、マクロライド系の抗生物質です。ジスロマックは、1回服用するだけで、効果が長時間にわたって持続するように設計されています。ジスロマックについては、飲み薬「ジスロマック」で詳しく紹介しています。

シプロフロキサシン

シプロフロキサシンは、ニューキノロン系の抗菌薬のひとつです。細菌を殺菌する作用があり、副作用も少ないといわれています。

エリスロマイシン

エリスロマイシンはマクロライド系の抗菌薬です。マイコプラズマやクラミジアの治療で使われることが多いですが、軟性下疳にも有効です。

日本性感染症学会が発行する「性感染症 診断・治療 ガイドライン」に、軟性下疳の治療薬と服用方法が記載されています。各薬剤の1日の服用回数、服用日数は下記のとおりです。

一般名 商品名 用量 1日の回数 日数
アジスロマイシン ジスロマック 1000mg 1回 1日
シプロフロキサシン シプロキサン 500mg 2回 3日間
エリスロマイシン エリスロシン 500mg 3回 7日間

塗り薬

軟性下疳を塗り薬で治療する際は、ゲンタシン軟膏を用います。ゲンタシン軟膏はアミノグリコシド系のゲンタマイシンを主成分としている抗菌薬の軟膏です。主に皮膚感染症の治療に用います。軟性下疳菌を殺菌、除去することで、赤みや腫れを治します。

薬剤費用は保険で1000円くらい

軟性下疳の治療に用いられる抗菌薬の価格は、自費で1,000円から3,000円のものがほとんどです。

保険が適用されれば300円から1,000円ほどになります。飲み薬と軟膏の薬剤費以外にも、胃薬などの処方があれば、その分の費用がかかります。筋肉注射の料金の相場は3,000円から5,000円です。処方される薬の量や治療法、種類によっても異なりますが、おおよそ自費負担で5,000円ほどになります。

軟性下疳の予防

代替テキスト

軟性下疳に限った予防法ではないものの、最も安全な予防策は、やはりコンドームを着用することです。信用できない相手や海外渡航先で性行為をしないといった選択も必要になります。

コンドームを着用する

コンドームの着用は、軟性下疳の予防に効果的です。軟性下疳の病変部をコンドームで覆えば、軟性下疳菌の接触が避けられます。コンドームは、膣性交だけでなく、アナルセックスやオーラルセックスなど、あらゆる行為において軟性下疳の予防になります。

現地の人間との性行為を避ける

軟性下疳に感染する可能性がある国や地域では、現地の性風俗産業を利用しないようにしましょう。日本国内で感染が確認された軟性下疳の患者は、海外渡航中の性行為が原因とされています。軟性下疳は、衛生管理が行き届いていない発展途上国では、現在でもメジャーな性感染症です。東南アジアやアフリカ、南米で感染するケースが多いので、それらの地域へ渡航するなら注意しましょう。

複数人との性行為を避ける

複数人との性行為を避け、軟性下疳に感染する確率を下げましょう。複数人と性的な関係を持てば、軟性下疳だけでなく、他の性感染症のリスクも背負うことになります。特にその日限りの相手との性行為は、相手の素性や性生活などが分かりません。そのため性病に感染する可能性も上がります。

相手の症状を見る

軟性下疳は病変部がわかりやすいため、パートナーに異常があれば自分の目で見て判断できます。性行為の前にしっかりと相手の性器を確認してください。そこで異常に気付けば、軟性下疳菌に感染する前に行為を避けられます。軟性下疳の予防策として、自分でパートナーの性器を確認するのもひとつの手です。

まとめ

軟性下疳は性行為によって感染します。感染すると性器や口の中に潰瘍ができて、激しい痛みを伴います。

軟性下疳は、国内での発症は珍しいですが、アフリカや東南アジア、南米では今もメジャーな性感染症です。海外へ行く方は警戒しておく必要があります。適切な治療を行えば1週間で治る病気です。自覚症状がある場合はすぐに検査と治療をしましょう。

軟性下疳に感染しないためにも、海外では無防備な性行為は避けるべきです。正しい予防策を学び、感染しないようにしっかりと対処しましょう。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「軟性下疳」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。