公開日
2018/03/01
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薬剤耐性とは、細菌やウィルスなどの病原微生物やがん細胞などが、抗微生物薬や化学療法剤に抵抗性をみせることです。

病原微生物が耐性を持つと、抗微生物薬(抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬)が効かない、または効きにくくなります。耐性を持つ理由は、標的である微生物が進化するからです。微生物が薬剤に対応して進化すると、薬の効果が徐々に失われていきます。

このページでは、薬剤耐性が起こる仕組みや原因を解説します。薬剤耐性を起こさないための対策や、薬剤耐性が起こったときの問題も見ていきましょう。

薬物耐性が起きる仕組み

微生物は様々な方法で薬剤に抵抗します。微生物が薬剤を防ぐ仕組みのなかから、主な仕組みを3つ紹介します。

  • 薬剤を分解して無効化
  • 自身の弱点を変えて無効化
  • 細胞から薬剤を排出して無効化

薬剤を分解して無効化

微生物は、薬剤を分解する酵素を作り出すことで、抗微生物薬を無効化します。代表的な分解酵素は、β-ラクタム系抗菌薬を分解するβ-ラクタマーゼです。

β-ラクタム系抗菌薬といえば、ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系なども含まれる、抗菌薬の一大グループです。β-ラクタマーゼは、β-ラクタム系抗菌薬に共通するリング構造(β-ラクタム環)を、バッサリと切断します。構造が変化した抗菌薬は、微生物に対して化学反応を起こせずに、そのまま力を失ってしまうのです。薬剤の不活性化は、主に抗菌薬の耐性で見られる仕組みです。

自身の見た目を変えて無効化

微生物は、自身の見た目を変化させることで、抗微生物薬を無効化します。細胞に薬剤がくっつかないように、遺伝子の一部を変異させるのです。

この関係をわかりやすく言うならば、鍵(抗微生物薬)と鍵穴(微生物)です。鍵が鍵穴にぴったりとはまることで、微生物の働きを抑えられます。鍵が鍵穴に入らなくなれば、薬の効力が失われるのです。薬剤標的の変化は、すべての抗微生物薬の耐性で見られる仕組みです。

細胞から薬剤を排出して無効化

微生物は、自身に薬剤を排出するポンプを取り付けることで、抗微生物薬を無効化します。自身の細胞に薬剤が到達しても、濃度を低く保つことで生き永らえるのです。

微生物が持つ排出ポンプの多くは、とても高機能(多剤排出ポンプ)です。1つの薬剤に限らず、類似性のない複数の薬剤を、細胞の外に出してしまいます。微生物が多剤排出ポンプを持つと、何種類もの抗微生物薬に耐性を持ちます。薬剤の排出作用は、抗菌薬と抗真菌薬で見られる仕組みです。

薬剤耐性は薬の不適切、不必要な使用で発生する

薬剤耐性を発生させてしまう原因は、抗微生物薬の誤った使用方法です。主に「不適切な使用」「不必要な使用」が原因とされています。

「不適切な使用」とは

「不適切な使用」とは、用量や使用期間が誤っていることです。

抗微生物薬は、それぞれの種類によって用法と用量、使用の期間が異なります。用量や使用期間を誤れば、微生物を殺しきれず、薬剤耐性を作るキッカケを与えてしまうのです。表面的な症状は緩和されていても、体内では病原微生物が生き残っている可能性があります。生き残った病原微生物は、薬への対処の仕方を学ぶのです。不適切な使用が、薬剤耐性のできやすい環境を作ります。

「不必要な使用」とは

「不必要な使用」とは、抗微生物薬が必要ではないのに、抗微生物薬を用いることです。

抗微生物薬を飲む回数が少なければ、微生物が薬剤耐性を持つ確率が下がります。飲む回数が多ければ、薬物耐性を持つ確率も上がるのです。不必要に薬を飲むことは、病原微生物に薬の対処法を学ばせる機会を多く与えます。

薬剤耐性の対策は決められた分量を飲みきること

抗微生物薬を正しく服用することで、薬剤耐性のリスクは避けられます。薬を服用する際は、服薬ルールをしっかりと守ることが大切です。薬剤耐性への対策は主に以下の2つです。

  • 処方された薬剤は用量・用法を守る
  • 余った薬剤を飲まないようにする

処方された薬は用量・用法を守る

処方された抗微生物薬の用量・用法を守ることで、薬剤耐性のリスクを下げられます。微生物が薬剤耐性をもってしまう前に、感染症を一気に治すことが大切です。

薬の量や種類を勝手に減らすと、病原微生物に十分な効果を発揮しない可能性があります。処方された薬を、最後まで飲み切ることも大切です。症状が軽くなったからといっても、病原微生物は一時的に弱っただけで、体内で生き残っていることがあります。服薬をやめてしまうことで、生き残った病原生物に耐性化の余地を与えてしまうのです。

余った薬を飲まないようにする

以前使った抗微生物薬が余っていても飲まないようにしましょう。効果のない薬を飲むことは、微生物がいたずらに耐性を持つことに繋がります。

抗微生物薬で病気の症状が緩和し、服薬をやめた場合、病院で処方された薬が手元に残ことがあります。その後、また似たような症状が出たからといって、残っていた薬を流用するのは厳禁です。症状が似ていても、原因の微生物が同じとは限りません。服用する薬が的外れなら、必要ないのに薬を服用していることになります。

薬剤耐性の問題

薬剤耐性を持った微生物は、ひとからひとへ感染します。抗微生物薬の薬剤耐性は世界的に問題となっています。

耐性を持った微生物に感染する

薬剤耐性を持った微生物は、抗微生物薬の攻撃を受けても死滅しません。

薬剤耐性を持った微生物に対して、同じ薬を投与し続けても治療は困難です。治療が長引けば、患者の身体面と金銭面、どちらの負担も増えてしまいます。感染症の治療が長引くと、他の人へ感染する可能性も高まります。他者への感染の面から、抗微生物薬の薬剤耐性は特に危険視されているのです。

薬剤耐性は世界的な問題

抗微生物薬の薬剤耐性は、世界中で問題視されています。

抗菌薬に対して耐性を持つ菌の影響で、薬剤耐性による年間の死亡者数が、2050年には1000万人を超えると予想されているのです。この数字は癌による年間死亡者数を超えています。どのように薬物耐性が起こるのか、どうやって微生物に薬物耐性を持たせないか、私たちも個人単位で知っておく必要があるのです。

薬剤耐性のまとめ

薬剤耐性とは、これまで効いていた治療薬が効かなくなることです。特に抗微生物薬の薬剤耐性が問題視されています。

薬剤耐性の仕組みは、主に3つあります。1つ目は薬剤を分解するパターン。2つ目が、微生物そのものが性質を変えて薬剤が効かなくなるパターン。3つ目が、細胞から薬剤を外に放出するポンプを作るパターンです。

薬剤耐性の原因は、抗微生物薬の不必要な使用や、不適切な使用です。医師から処方された用法や用量をしっかり守りましょう。薬をその都度その都度飲みきることで、薬剤耐性のリスクを下げられます。