公開日
2017/11/21
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エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染している人の血液や体液を介して感染することによって起こる病気です。エボラ出血熱の死亡率は、25%から90%と言われています。非常に高い確率で死亡する、危険な病気です。

危険は病気とはいえ、「海外の遠い世界のことだから気にしても仕方ない」「なんとなく危ない病気としか分からない」というのが本音ではないでしょうか。日本にいるからといって、エボラ出血熱への感染のリスクがゼロとは言い切れないのです。

このページでは、エボラ出血熱の症状や原因、感染経路や治療法について紹介します。また、過去の集団感染の事例や、日本国内での動向も細かく解説します。

エボラ出血熱は出血を伴うウイルス感染症

生理周期とスキンケアの流れ

エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染することによって発症する、全身性の感染症です。エボラ出血熱を発症すると、全身にさまざまな症状があらわれ、最終的には死に至る場合もあります。エボラウイルスは1種類ではありません。ウイルスには5つの種類があり、種類によって症状の重さや致死率が異なります。

エボラ出血熱の症状

エボラ出血熱に感染したときには、以下のような症状があらわれます。

  • 38度以上の高熱
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • のどの痛み
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 内臓機能の低下

エボラウイルスの潜伏期間は、2日から21日程度です。潜伏期間を経て、上にあげた症状があらわれます。症状はほかにも、目や鼻、口や性器から出血するケースもあるのです。

「出血熱」という語源は、出血症状からきています。しかし実際には、すべての患者が出血症状を起こすわけではありません。出血症状の不気味さから「エボラ出血熱」と名付けられましたが、最近では「エボラウイルス病」と表記されることもあります。

平均致死率50%!?危険すぎる感染症

エボラ出血熱に感染した際の致死率は、25%から90%と大きく異なります。変動する理由は、感染したエボラウイルスの種類が異なるからです。エボラ出血熱は以下の5種類に分けられます。

【エボラウイルスのタイプと致死率】
エボラウイルスのタイプ名 致死率の平均と幅
ザイール型エボラウイルス 79%(44~100%)
スーダン型エボラウイルス 63%(41~100%)
ブンディブギョ型エボラウイルス 38%(25~51%)
タイフォレスト型エボラウイルス 0%(0%)
レストン型エボラウイルス 0%(0%)

エボラ出血熱が大流行するときは、ザイール型かスーダン型がほとんどです。エボラウイルスのなかでも、ザイール型は急速に細胞を壊死させる強い病原体です。そのザイール型と比べると、スーダン型の致死率は若干下がります。レストン型には人間が感染して発症した例はありません。レストン型に関しては、人に感染してもエボラ出血熱は引き起こさないと考えられています。

エボラ出血熱は、感染するウイルスの種類によって危険度が変わる、非常に危険な感染症です。

エボラ出血熱の感染経路4つ

エボラウイルスに汚染された医療器具などに直接触ることで感染する

エボラウイルスには、エボラ出血熱に感染した人または動物の体液に直接触ることで感染します。エボラウイルスに汚染された医療器具や体液、また感染した動物に触れてしまっても感染するのです。

感染症の予防と対策を行なう組織として最先端を歩む、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)では、エボラ出血熱の感染経路を、以下のものとして発表しています。

  • エボラ患者(死者含む)の血液、または体液との接触
  • エボラ患者(死者含む)の体液で汚染された医療機器との接触
  • 感染したオオコウモリ、または霊長類(チンパンジーや猿など)との接触
  • エボラ出血熱から回復した男性の精液との接触

続いて、リストに挙げた感染経路について、詳しく解説していきます。

エボラ患者の血液または体液との接触

非感染者が、感染者の吐しゃ物などを始末する際に誤って感染することがあります

エボラ出血熱に感染した患者の体液に触れると感染します。体液とは、吐しゃ物、糞尿、血液、汗、精液など、身体から出る液体すべてを指します。

患者の体液に接触

エボラウイルスは、感染者の体液から感染します。非感染者が、感染者の吐しゃ物などを始末する際に誤って感染するのです。医療従事者が、汚染された病室を掃除していて、感染するケースなどが数多く報告されています。原因は、床や壁などに付着した、患者の体液に直接触れてしまったことです。

死者の体に接触

エボラウイルスは、亡くなった患者の死体からも感染します。

エボラ出血熱は、宿主が死亡する直前に、感染力が最も増すとされています。感染力を増したウイルスは、宿主が死亡した後も、高い感染力を保持したまま生き続けるのです。死体に触れるだけでも、感染するリスクを伴います。

2014年から2016年に西アフリカで大流行したケースでは、死者の埋葬や葬儀の際に、死者に触れるという慣習が災いしました。亡くなった感染者に触れた参列者も、エボラウイルスに感染。死亡した参列者の葬儀で、別の参列者が同じように感染する、という負のスパイラルに陥ったのです。

エボラ患者の体液で汚染された医療機器との接触

注射器の使い回しによってエボラ出血熱の感染が拡大

医療後進国のアフリカでは、注射器の使い回しによって、エボラ出血熱の感染が拡大しました。

エボラウイルスは、乾燥した無機物(ドアノブなど)のうえでも数時間は生存します。血液のような体液のなかであれば、なおさら長く、数日間は生きられるのです。エボラ出血熱の患者の看護に使った医療器具は、きちんと滅菌しなければ、エボラウイルスが残ったままになるのは当然でしょう。日本ではなかなか考えられないことですが、アフリカでは医療器具の正しい管理法が徹底されていません。

体液が付着した注射器を、別の患者に使い回したため、エボラウイルスが拡大してしまったのです。

感染した霊長類やオオコウモリとの接触

エボラウイルスの感染拡大に関わっているはコウモリなど一部の霊長類

エボラウイルスは、エボラ出血熱を発症する特定の動物との接触でも感染します。一言で「動物」と言ってしまうと、感染源が無限に増える印象を持ちます。しかし実際に感染の拡大に関わっていると考えられるのは、コウモリ、サルなどの一部の霊長類です。

感染した動物との接触

2017年の時点では、エボラウイルスをもたらす動物とは、主にコウモリ類と猿類だと考えられています。動物からの感染について、世界保健機関(WHO )は、以下の動物を感染の原因として挙げています。コウモリ、チンパンジー、ゴリラ、サル、アンテロープおよびポルカピンなどです。これらの動物の血液や体液に触れると感染する可能性が高いのです。人間と同じように、エボラを発症した動物の死体も、感染経路になり得ます。

元凶の宿主はオオコウモリ説が有力

エボラ出血熱の元凶である自然宿主は、オオコウモリではないかと考えられています。

自然宿主とは、ウイルスを体内に保有していても、無症状でなんの問題もなく生きていられる宿主のことを指します。エボラ出血熱の第一感染者は、動物から感染して発症しています。しかし、いまだ原因となるエボラ出血熱の自然宿主は見つかっていません。オオコウモリが自然宿主と目される理由は、中央アフリカに生息するオオコウモリの臓器から、エボラウイルスの遺伝子が検出されたからです。

エボラ出血熱から回復した男性の精液との接触

感染から回復した男性の精液からエボラウイルスが発見された

エボラウイルスは、エボラ出血熱の症状が完治したあとも体内に残り、感染の原因になります。感染から回復した後、1年半以上経った男性の精液からも、エボラウイルスが発見されました。

症状が回復した男性患者の精子からウイルス検出

1年半以上前に、エボラ出血熱から回復した男性の精液から、エボラウイルスが発見されました。エボラ出血熱の治療は対症療法だけです。しかし体内で抗体が作られさえすれば、症状は急速に回復に向かいます。しかし、エボラウイルスは、睾丸のなかや眼球の体液などにしばらく潜伏するのです。

エボラウイルスが完全に消失する期間はわかっていません。ある男性の精液からは、エボラ出血熱から回復した565日後の検査でも、ウイルスが検出されました。逆に、別の男性の場合、完治から3カ月で精液からウイルスが消失しています。男性患者それぞれで、大きな個体差があるのです。

エボラ出血熱から回復した男性とセックスするときに気をつけること

もし、エボラ出血熱から回復した男性とセックスするなら、精液に直接触れることだけは絶対に避けましょう。

当然ですが、性行為をするときのコンドーム着用が義務付けられています。男性の精液から「陰性」の検査結果が2回出るまでは、コンドームを継続しなければいけません。また、性行為だけでなく、マスターベーションに関しても注意が必要です。男性自身も、自らの精液に触れてしまったら、すぐに石けんで洗い流すようにしましょう。

世界保健機関(WHO)のガイドラインでも、エボラ出血熱から回復した男性は、家族や配偶者、恋人の安全のために、衛生面に気をつけるべきだと発信しています。

WHOが推奨する、エボラ出血熱から回復した後の対策

世界保健機関(WHO)が推奨するエボラ出血熱患者へのケアは、徹底した管理・検査・カウンセリングです。

世界保健機関(WHO)が発表した患者ケアの内容
  • 男性のエボラ出血熱の患者は、精液検査で陰性と判断されるまで、カウンセリングを受ける。
  • 男性のエボラ出血熱の患者は、発症3カ月後に精液検査を受ける。その後の検査結果が陽性であれば、1週間の間隔で陰性になるまで検査を受ける。
  • 精液検査で、陰性の結果が2回出るまではコンドームを使用する。

エボラ出血熱を発症している患者と違い、回復した男性は自分の精液のなかにエボラウイルスがいるとは考えません。危険をしっかりと自覚させるためにも、カウンセリングが必要です。精液からウイルスが消失する期間は、患者個々で異なります。陽性の結果が出れば、陰性になるまで精液検査を受けさせるべきとしています。陰性の結果が出れば、エボラウイルスを拡散してしまう恐怖から解放されます。それ以降は、性行為の制約はありません。

エボラ出血熱の治療は対症療法

体内で、エボラウイルスに対する抗体が作られるようになると、症状は急速に回復していきます

2017年時点では、世界保健機関(WHO )がエボラ出血熱に対して承認したワクチンや治療薬はありません。治療は体内に抗体ができるまで対処療法を行います。

エボラ出血熱の治療は対症療法

エボラ出血熱の治療は、対症療法が基本です。対症療法とは、病気の原因に対処するのではなく、あらわれている症状を軽くする治療法です。患者自身の自然治癒力を高め、かつ治癒を早めることを目的としています。例えば、下痢で脱水症状を起こしている患者へ点滴を行ったり、感染症の併発を避けるために、抗生物質を投与したりします。

ウイルスに対する抗体ができれば快方に向かう

患者の体内で、エボラウイルスに対する抗体が作られるようになると、症状は急速に回復していきます。エボラ出血熱に対する治療では、患者の免疫力を高めてウイルスに打ち勝つのを待つことしかできません。患者自身がエボラ出血熱に打ち勝てば、エボラウイルスに対する抗体が手に入るのです。

エボラ出血熱の治療薬は未だ開発途中

エボラウイルスに対するワクチンや抗ウイルス薬は、世界中で研究開発が進んでいます。しかし、安全性や有効性が完全に証明された薬はありません。2014年から2016年の西アフリカでの集団感染の際、まだ実験段階にある治療薬の臨床試験が行われました。なかでも、抗インフルエンザ薬として日本で開発された「ファビピラビルの有効性が示唆されています。また、水泡性口炎ウイルスを用いたリコンビナントワクチンが有効性を示しています。今後の実用化に向けて一歩前進があったといえます。

現地での予防策・現地に行くことになったら

エボラ出血熱は、正確な知識をもって対策すれば、感染を避けられます。現地に行くことになれば、細心の注意を払って行動しましょう。

まず、基本的に感染が疑われる人と関わらないことや集団感染が懸念される地域での行動を避けましょう。厚生労働省の運営する感染症予防サイトや、外務省の運営する海外安全サイトなどで、どこの地域で感染症が流行っているかを事前に調べることも大切です。また、エボラウイルスは、アルコール消毒だけでなく石けんでも感染力をなくせます。もし、感染の可能性のある患者や動物と接触してしまった場合は、すぐに石けんで洗いましょう。

エボラ出血熱の大感染に備える

西アフリカでエボラ出血熱の集団大感染

エボラ出血熱は、遠い世界で起きている謎の病気ではありません。日本国内にいる私たちも、感染してしまう可能性はゼロではないのです。2014年に西アフリカでエボラ出血熱の集団大感染があった事例を振り返りながら、日本国内での感染の可能性や、最近の発生事例を見ていきましょう。

西アフリカでエボラ出血熱の集団大感染

2014年に西アフリカの6か国で、史上最大の集団感染が発生しました。WHOが全世界に警戒宣言を出すまで拡大した理由には、感染を拡げる3つの問題点があったのです。

西アフリカの6か国で史上最大の集団感染が発生

概要:過去最大規模の集団感染

この集団大感染の特徴は、過去最大の規模で感染が広がったことと、アフリカ大陸以外で初めて感染者が出たことです。

西アフリカでの感染は、2013年12月から約3年間に渡って続きました。感染者の総数は28,000名、死亡者数は11,000名以上にのぼっています。以前に起きたエボラ出血熱の感染者数は、多くても300名程度。影響は6か国(ギニア、シエラレオネ、リベリア、セネガル、マリ、ナイジェリア)にも及びました。国を跨ぐほど感染が拡大したことは、過去に例がありません。

患者の治療にあたった医療関係者を通じてアメリカ、イギリス、イタリアでも輸入感染が発生

エボラ出血熱がアフリカ大陸以外で発生したのも、今回が初めてでした。患者の治療にあたった医療関係者を通じてアメリカ、イギリス、イタリアでも輸入感染が発生。世界中を巻き込み兼ねない大感染です。2014年8月には、世界保健機関(WHO)が、「国際的に流行が懸念される公衆衛生上の緊急事態」に相当することを発表しました。遠い世界の病気だったエボラ出血熱が、世界規模で流行する可能性がある、という深刻な事態に陥りました。(その後、感染の収束を受けて、勧告は2016年3月に解除された)

問題点:西アフリカで集団大感染が起きた理由3つ

西アフリカの集団感染が、過去に例を見ない規模で拡大した理由は、以下の3つが考えられます。それぞれを詳しく解説していきます。

  • 国境間の認識の違い
  • 過去に感染例がなかった土地での流行
  • 感染を拡大させた伝統習慣
問題1. 国境間の認識の違い

1つ目は、エボラ患者の移動を食い止められなかったことです。陸続きのアフリカ大陸では、国境という概念がわたしたちと違います。国境間を自由に行き来できるのです。また、過去にエボラ出血熱が流行ったときと、住民の移動力が大きく異なったことも影響しました。コンゴやウガンダよりも、ギニアとリベリアとシエラレオネでは、住民の国境間の移動が特に盛んだったのです。

問題2. 過去に感染例がなかった土地での流行

2つ目は、現地の住民をしっかりと統制できなかったことです。国境なき医師団(MSF)の報告では、感染拡大の要因として、住民からエボラ出血熱の理解が得られなかったことを挙げています。エボラ出血熱は、過去にはコンゴやスーダンなど、南アフリカを中心に発症していた病気です。そのため、西アフリカの住民は「聞いたこともない病気が流行るはずがない」と、MSFの勧告を軽視してしまったのです。

問題3. 感染を拡大させた伝統習慣

3つ目が、感染への理解の低さから、伝統的な習慣を継続してしまったことです。大感染を起こした要因の一つに、伝統的な埋葬の儀式があります。西アフリカでは、葬儀の際に死者を悼み、身体を抱擁したり、手足をさすったりする習慣がありました。この習慣が感染拡大への大きな要因となりました。

日本でも感染の可能性はゼロではない

日本国内でエボラ出血熱が発症した例は、2017年時点ではありません。とはいえ、航空機の発達による「輸入感染」は無視できないのです。海外で輸入感染が起きた例を2つ紹介します。

1つ目は、西アフリカの大感染で起きた例です。旅行者や医療従事者を通じ、アメリカ・イギリス・イタリアで輸入感染が発生しました。

2つ目が、アメリカ国内で初めて起きた、ダラスでの二次感染です。西アフリカの大感染のとき、リベリアからアメリカに渡った感染者1名がダラスで死亡しました。感染者の治療に当たった、ダラスの看護師2名が二次感染したのです。日本からも医療従事者や旅行者から輸入感染するケースもあり得ない話ではありません。

航空機網が発達した現代では、エボラ出血熱が流行した地域以外へも、エボラウイルスは簡単に飛び火するのです。

エボラ出血熱は2017年にも発生している

繰り返すようですが、エボラ出血熱は、遠い世界の話でも、過去の病気でもありません。

世界保健機関(WHO)の発表では、2017年5月9日に、コンゴ民主共和国でエボラ出血熱が発生しています。感染が確認されたのは8名、そのうち死亡者は4名でした。2カ月後の7月2日には、WHOから「今後感染の恐れなし」として終息宣言が出ています。

海外旅行に行くときだけでなく、日頃からエボラ出血熱の流行状況に注意を払いつつ、ニュースをチェックしましょう。

まとめ

エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染して発症する、死亡率が非常に高い感染症です。

エボラ出血熱は、感染した人や動物の体液に触れると感染します。いまだ有効な治療薬やワクチンはなく、治療法は対症療法が基本です。

もし、エボラ出血熱が流行っている地域に行くことなった場合は、最新の流行病についての情報をチェックしましょう。石けんによる手洗いも予防になります。集団感染が懸念される場所を避けるのはもちろん、感染を疑われる人や物への接触を避けましょう。

エボラ出血熱は、2014年に西アフリカで大流行しました。アフリカ以外でも初めて感染が確認された、世界的に危険視される感染症です。航空機が発達した現代では、感染者が誤って入国してしまう可能性もゼロではありません。2017年時点でも、アフリカでは感染が確認されています。自分だけは安全と思わずに、細心の注意が必要なのです。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「エボラ出血熱」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。