
精巣上体炎(せいそう・じょうたいえん)
「睾丸の辺りが痛い」「熱が出て腫れだした」「触ってみたらしこりができている……」
それは精巣上体炎の症状かもしれません。
精巣上体炎は、精巣(睾丸)の後ろについている精巣上体(副睾丸)に細菌やウィルスが感染し、炎症を起こす病気です。多くの場合、尿道炎や前立腺炎、膀胱炎の原因となる細菌が精巣上体に入り込むことで発症します。
まれにウィルスや真菌によって発症することもあります。精巣上体炎は陰のう部に激しい痛みや腫れ、発熱が起こり、ひどい場合は不妊につながる場合もあります。しかし、早めの診断と処置によって治る病気です。
このページでは、精巣上体炎の原因や症状、診断のための検査法について解説。治療法や治療薬も紹介します。もし精巣上体炎になってもすぐに対処できるよう、しっかりとした知識を身につけましょう。
精巣上体炎の原因と症状

精巣上体炎の原因や症状について詳しく知るため、はじめに泌尿器の構造から説明します。
まず、精巣上体とは、精巣と精管をつなぐ器官です。
精巣で作られた精子は、以下の順番で泌尿器内の器官を通り、精液とともに射精されます。
- 精巣
- 精巣上体
- 精管
- 精のう
- 尿道
このうち精巣上体には、精巣で作られた精子を一時的に蓄えて成熟させる役割があります。精巣上体に異常が起こると、精子が精管に運ばれず、正常な射精ができなくなってしまうのです。このように精巣上体は、泌尿器内でも重要な役割を担っています。
精巣上体炎の原因
精巣上体炎を発症する原因は、尿に含まれた細菌が尿道を逆流してしまうことです。性感染症などに感染して尿道炎や膀胱炎を発症した際、原因となる細菌が尿道を通って精巣上体に入り込んでしまいます。
高齢者の場合、尿道が狭くなる尿道狭窄(きょうさく)や、膀胱結石が原因で発症することがあります。発症する原因のほとんどは細菌の感染ですが、まれに患部を傷つけてしまったことが原因となる場合もあるのです。
種類 | 原因 | 特徴 |
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細菌性 |
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性行為による淋菌、クラミジアなどの感染が主な原因。 若い人に多い。 |
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大腸菌、ブドウ球菌などの感染が原因。 高齢の人に多い。 |
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尿道カテーテルから細菌が侵入 | ||
結核 | 肺の結核菌が移動して起こる場合がある。 | |
非細菌性 |
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HIVなどで免疫が低下している場合に起こる。 |
その他 |
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表からもわかるように、精巣上体炎はさまざまな原因によって発症します。はっきりとした原因がわからないまま発症することもあるのです。
精巣上体炎の症状
次に、精巣上体炎の症状についてみていきましょう。精巣上体炎には、「急性精巣上体炎」と「慢性精巣上体炎」の2種類があり、それぞれ症状が違います。
急性精巣上体炎
はじめは精巣上体の周りに痛みを感じる程度ですが、進行すると腫れたり周辺の部位に影響を及ぼしたりします。
初期症状では、精巣上体のあたりに痛みを感じるようになり、だんだんと強まっていきます。次第に強い痛みが陰のう(精巣と精巣上体)に広がって赤く腫れあがり、硬くなったり、熱を持ったりするのです。さらに症状が進行すると、精巣と精巣上体が膨らんで、太ももの付け根や下腹部、リンパ節なども痛むようになります。
ここまで症状が悪化すると、痛みで歩くのもつらくなってしまうのです。また、38℃以上の高熱が出て、悪寒がすることもあります。尿道炎が原因の場合は、排尿の際に痛みを感じたり、膿が出たりすることもあります。
慢性精巣上体炎
症状が続いて急性から慢性精巣上体炎になると、しこりがみられるようになります。強い痛みや腫れ、発熱はなくなりますが、鈍い痛みや違和感が続きます。
精巣上体炎が慢性化すると、炎症によって精細胞が死滅し、精子の生成が妨げられるのです。また、しこりが残ると精管を圧迫し、精巣で作られた精子が尿道に届かなくなる場合もあります。こうなると、「無精子症」の原因にもなりえるのです。無精子症とは、射精した精液中に精子が含まれていない状態を指します。
このように診断が遅れて慢性化すると、治療に時間がかかってしまいます。精巣上体炎はたいていの場合、副睾丸の片側に起こります。しかし、両方の睾丸が精巣上体炎を起こせば、男性不妊となる可能性が高まるのです。症状に気づいたら、早めに泌尿器科を受診しましょう。
子供が精巣上体炎を発症した場合
精巣上体炎は、子供も同じように発症することがあります。精巣がまだしっかりと固定されていない乳幼児や、精巣の体積が急激に増える思春期の子供は、より危険な症状を引き起こす可能性があります。精巣上体炎ではなく、「精巣捻転」というさらに重い疾患を発症する場合もあります。早期の段階で手術を受けなければ精巣が壊死する危険性があるのです。もし子供に疑わしい症状がみられたら、すぐに病院へつれていきましょう。
精巣上体炎の検査法

精巣上体炎を診断する際、問診と視診で症状を確認し、検査を行って原因を特定します。
検査法 | 検査の詳細 |
---|---|
尿検査 | 尿中の白血球や細菌を検出し、尿路感染症にかかっているかを判別。 発症している場合、膿尿(※)であることが多い。 ※膿尿ː多量の白血球が混ざり濁った尿 |
尿培養 | 採尿した尿に含まれる細菌を増殖させることで、見つけやすくする。 原因となる菌が特定しやすい。 |
血液検査 | 全血球計算によって、全身の炎症反応を確認。赤血球など血液中の成分を調べる。 この検査法で細菌、炎症状態がわかる。 発症している場合、白血球の数が過剰であることが多い。 |
尿道スワブ | 細長い綿棒を使い、尿道内の細菌を採取する。 |
超音波検査 (カラードプラ法) |
超音波を当てて、その反射を映像にすることで体内を確認する。 カラードプラ法は、血流の流れが色であらわれる。 精巣捻転(せいそうねんてん)かどうかを判別するのにも有効。 精巣上体炎を発症している場合は血流が増加。 精巣捻転を発症している場合、血流の低下または無血流がみられる。 |
MRI | 電磁波を当てることで体内の水素原子を反応させ、患部の中を可視化。 |
クラミジアなどが原因となって精巣上体炎を発症することもあるので、性病の検査も併せて行われます。
検査の中でも特に重要なのが、精巣捻転との区別です。精巣捻転は、文字通り精巣がねじれてしまう病気です。そのために、精索という部分が締め付けられ、血流が止まってしまいます。この精巣捻転と精巣上体炎は症状が似ています。ともに陰のうに腫れと痛みがありますが、治療法が全く違うので、一刻も早く区別する必要があるのです。
精巣上体炎の治療法

精巣上体炎は感染症による発症がほとんどなので、基本的に服薬治療を行います。精巣上体炎の治療では、サポーターやきつめの下着などで持ち上げて固定し、激しい運動や飲酒を控え、安静にしておくことも大切です。また、湿布や氷嚢で局所を冷やすことも、炎症や痛みを抑えるのに効果的です。熱がひどい場合は入院し、消炎鎮痛剤と点滴を受けて安静を保つこともあります。
急性精巣上体炎では、これらの治療を施せば、1週間から2週間で激しい症状は収まります。腫れは数週間から数ヶ月で引きますが、しこりは消えるまで3ヶ月から6ヶ月かかることもあります。場合によっては、しこりがそのまま残ってしまうこともあるのです。
治療薬
精巣上体炎の治療薬は、原因と考えられる細菌に対応した抗菌薬です。市販はされていないので、泌尿器科で処方を受けましょう。
薬品名(系統) | 代表的な適応菌種 | 特徴 |
---|---|---|
クラビット (ニューキロノン系) |
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DNA合成を妨げることで細菌を死滅させる。 吸収率がよく、多くの細菌に効く。 |
ユナシン (ペニシリン系) |
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細菌の細胞壁の合成を妨げ、死滅させる。 |
セフゾン (セフィム系) |
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細菌の細胞壁の合成を妨げ、死滅させる。 ペニシリン系よりも副作用やアレルギーが少ない。 |
トブラシン (アミノグリコシド系) |
|
細菌のタンパク質の合成を妨げ、死滅させる。 |
ジスロマック (マクロライド系) |
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細菌のタンパク質の合成を妨げ、死滅させる。 副作用が少なく、作用時間が長い |
結核菌による炎症の場合は、数種類の抗結核薬を服用し、治療していきます。これらの治療薬に加え、痛みや炎症を抑えるための消炎鎮痛剤も処方されます。
精巣上体炎はほとんどの場合、抗菌薬が一番の治療法です。症状が治まるまでしっかり服用しましょう。
早めの治療を
初期の治療が不十分なために症状がおさまらない場合、炎症が悪化してたまった膿が、陰のうから漏れ出てくることもあります。そのような場合は、針を使って膿瘍(膿がたまってできた袋)から膿を出します。慢性化すると、服薬治療を長期にわたって行わなければなりません。
これらの治療をおこなっても完治が見込めないときは、陰のうの切開が必要となる場合もあります。精巣や精巣上体を一部、あるいは全て摘出しなければならないケースもあるのです。
精巣上体炎は、主に尿道炎から進行していきます。尿道炎が発症している時点で何らかの症状があるはずなので、気付いたら早めに治療を受けましょう。
まとめ
精巣上体炎の症状の多くは、生活に支障をきたすものです。自然治癒は見込めず、放置しておくと化膿や睾丸の萎縮、精子の生成や射精が正常に行われないなど、さまざまな合併症が生じます。さらに症状が悪化すれば、精巣が死滅して切除をせざるを得なくなったりと、男性不妊の原因にもなり得ます。
精巣上体炎は、発見が遅れるとそのぶん治療に時間がかかり、リスクも高まります。症状に気付いたら、できるだけ早く泌尿器科の診断を受けましょう。