公開日
2017/10/26
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「真菌」と聞いてピンとくる人は少ないかもしれません。真菌とは一言でいえばカビのことで、キノコや発酵食品に使われる酵母も含まれます。また抗生物質のもとになるなど、人間にとって欠かせない菌です。その一方で水虫や性器カンジダといった「真菌感染症」の要因でもあります。真菌感染症は多くの場合、体の免疫力が下がっているときに発症し、なかには命に関わる症状を引き起こすこともあるのです。

このページでは、真菌とそれによって起こる真菌感染症について解説します。感染の原因や症状、治療法なども紹介していきます。身近なものから重篤なものまで、さまざまな病気につながる真菌について、理解を深めていきましょう。

カビが身体に定着して真菌感染症にかかる

真菌はカビ(糸状菌)、酵母(酵母菌)、キノコ類(担子菌)のことを指します。

真菌感染症とは、真菌(カビ)が体に定着したことでおこる病気です

カビはペニシリンといった抗生物質の精製や害虫の駆除に用いられています。酵母は、麹(こうじ)やパンといった食品の加工に使われており、人の生活に欠かせない存在です。一方で人体や動物に有害なものもあり、そうした真菌が体の中に定着して起こる病気を真菌感染症(真菌症)といいます。

真菌感染症の種類は3種類

真菌感染症は感染、発症する場所によって3種類に分けられます。

  1. 表在性真菌症(浅在性皮膚真菌症):皮膚の上
  2. 深部表在性真菌症(深部皮膚真菌症、または皮下真菌症):真皮や皮下組織
  3. 深在性真菌症(全身性真菌症、内蔵真菌症):肺や臓器など人体の深部

このうち深在性真菌症は重篤な症状を引き起こし、命に関わることもあります。数万種存在するとされている真菌のうち、人体に有害なものは約50種といわれています。

免疫が低下すると真菌感染症にかかりやすい

真菌は本来、自然界のあらゆるところに存在しています。人間の体内にも常にありますが、免疫の働きによって病原体や有害なものは排除されるので、通常は感染症を起こすことはありません。

しかし、体の抵抗力が低下していると、免疫が正しく機能せず、感染症を発症しやすくなってしまうのです。

ストレスや不摂生、治療のための抗がん剤や免疫抑制剤などが原因で免疫力は低下します。それによって元々体内にいる菌(常在菌)が繁殖をはじめたり、体に入った菌が排除されず、感染症を起こすのです。

普段は無害な菌が、免疫の低下によって体に悪影響を及ぼすことを日和見感染といいます。

また、子供や高齢者、免疫不全の人など感染症にかかりやすい人を易感染者(いかんせんしゃ)といいます。

真菌感染症の原因は日和見感染

真菌は空気中や土中のどこにでも存在しているので注意が必要

真菌感染症の原因の多くは、日和見感染によるものです。

真菌は空気中や土中のどこにでも存在しています。真菌が繁殖するのは、植木鉢や空調機といった高温多湿の環境です。雨期は室内のホコリが湿気を含み、カビが繁殖しやすくなります。また、動物も感染するので、ペットや野生動物との接触にも気を付けるべきでしょう。例えばハトの糞は真菌が繁殖し、乾燥した糞が飛散して経口感染することがあります。

白癬(はくせん。水虫やしらくものこと)の場合、感染者の患部に触れることで感染します。感染者がつかったタオルやスリッパを使ったりすることで間接的にうつることもあります。

また真菌感染症の一つである性器カンジダは、性行為によって相手に感染する性感染症です。海外には健康な人でも深在性真菌症を起こす真菌があるので、海外旅行の際は注意が必要です。

真菌感染症の種類、症状と原因はさまざま

種類 病名 症状 原因
表在性真菌症
白癬
しらくも
水虫
たむし
患部の皮の剥がれ、痒み、水疱、脱毛、円状の紅斑、角質が厚くなるなど 湿った、あるいは不衛生な箇所で白癬菌が繁殖する。感染者の患部や患部の触れたところに接触する
皮膚カンジダ 手の皮膚表面ががさつく、爪の根元が白く変色、紅斑、水疱、膿など 日和見感染
性器カンジダ 患部のかゆみ、炎症白色の帯下など 日和見感染。湿気や不潔による繁殖。感染者との性行為。月経前、ピルなどによるホルモンバランスの変化
癜風 背部、胸部、腋窩に淡褐色の斑。 日和見感染。汗をかきやすい、脂っぽい人に多い
マラセチア毛包炎 かゆみの少ない赤いぶつぶつ。小膿疱。 日和見感染。汗をかきやすい、脂っぽい人に多い。
深部表在性真菌症 スポロトリコーシス 赤い肉芽腫。進行すると膿胞ができたりただれたりする。リンパ管にそってしこりができる。 外傷部位から真菌が侵入
黒色真菌症(クロモミコーシス) 四肢や顔面に赤色の丘疹、しこり 外傷部位から黒色新菌が侵入
深在性真菌症 アスペルギルス症 感染部位によって喘息、肺炎、血栓、脳腫瘍など 免疫が低下、あるいはアスペルギルスに対してアレルギーを持っている人が胞子を吸入することで発症
クリプトコッカス症 鼻孔に肉芽腫、脳髄膜炎、頭痛、発熱、昏睡、人格変化など 免疫が低下した人が胞子を吸入することによる日和見感染
接合菌症(ムーコル症) 呼吸困難、腹痛、顔面壊死など 日和見感染

カンジダが肺に移行して肺カンジダとなったり、クリプトコッカスが皮膚上で発症することもあります。

真菌の種類で検査や診断方法もかわる

真菌が見つかった場合は、特徴から種類を判別し適切な治療を行います

真菌感染症の症状には発疹など他の皮膚病と似たものが多いため、病変部に真菌が存在しているかを確認する必要があります。

顕微鏡検査

角質や爪、髪を苛性カリで溶かして分解し、その中に真菌が存在するか確かめます。真菌が見つかった場合、その特徴から種類を判別し適切な治療を行います。

真菌培養

患者の血液や組織の一部をとり、想定される菌に応じた培地の上で培養し特定します。真菌の培養には2週間から4週間ほどの期間が必要です。

画像検査

胸痛、喀痰、呼吸困難がみられる場合は肺真菌症の可能性があります。その場合はX線やCTスキャンで肺の中の様子を見ます。アスペルギルス症といった肺真菌症にかかっている場合、境界のぼんやりした影(浸潤影)や菌球が確認できます。

血液検査

血液の中に真菌がいないか確認します。また真菌を排除するためにつくられる抗体がみつかれば、真菌に感染していることがわかります。

内視鏡検査

体の中で感染が疑われている部分を内視鏡で直接観察し、症状が出ているか確認します。

真菌感染症の治療は塗り薬か飲み薬が使われる

真菌感染症は症状によって受診する診療科目が変わります

真菌感染症は、発症した箇所によって受診するべき診療科目が変わります。白癬など表在性真菌症の場合は皮膚科、性器カンジダの場合は婦人科や性病科、深在性の重いものなら呼吸器科内科などです。

真菌感染症の治療には抗真菌薬が処方されます。真菌は人間と同じ真核生物(細胞に核がある生物)で、細胞の構造が似ています。そのため人体に害を与えず、真菌だけに効果を示す薬剤は限られているのです。

抗真菌薬は、真菌の細胞膜を破壊、または生成を阻害することにより、真菌を死滅させる効果をもちます。

抗真菌薬は患部に直接つける塗り薬が主ですが、症状によっては内服薬で治療します。

治療に使われる主な抗真菌薬

薬品名 真菌 市販製品
イソコナゾール
  • カンジダ
  • 白癬
  • 癜風
  • フレディCC(塗り薬・膣剤)
  • アデスタンクリーム
フルコナゾール
  • カンジダ
  • クリプトコッカス
  • ジフルカン(錠剤・液剤)
  • ダイフルカン(錠剤)
ケトコナゾール
  • 白癬
  • カンジダ
  • 癜風
  • ニゾラールクリーム
テルビナフィン
  • スポロトリコーシス
  • クロモミコーシス
  • など
  • ラミシール(塗り薬・錠剤)
カスポファンギン
  • カンジダ
  • アスペルギルス
  • 市販製品なし(病院でファンガード、カンサイダスが点滴として使われる)
ミカファンギン

真菌感染症の予防は、規則正しい生活

真菌感染症の主な原因は、日和見感染によるものです。不規則な生活リズムや栄養不足、ストレスは体の免疫を弱める原因となります。また、不潔にしていると体に真菌が繁殖しやすくなります。規則的な生活と衛生に気をつかい、体の健康を保つのが一番の予防となります。

また、真菌のなかには、健康な人でも感染、発症するものもあります。例えばクリプトコッカスがそれにあたります。菌を媒介するハトの群れにはあまり近づかず、糞や羽毛には触れないように気を付けましょう。

白癬を患った人が身近にいる場合は、タオルやマットなど肌が触れるものを共有しないことが大事です。ペットを飼っている人は、免疫が落ちないよう健康、衛生環境に気をつかってあげましょう。そうすることでペットから人への感染も防げます。

真菌・真菌感染症のまとめ

真菌は人間に有益な面がある一方で、真菌感染症を起こして人体をおびやかすこともあります。水虫やカンジダといった身近なものから、肺や臓器になど体の奥深くに感染し、最悪の場合死に繋がるものまでさまざまです。

真菌そのものはどこにでも存在しています。身体の免疫が下がることによる日和見感染が主な原因です。

表在性の真菌症は、皮膚の発疹やかゆみが主な症状です。深部表在性だととしこりや腫れができます。深在性真菌症では、感染した部分によって血栓、脳髄膜炎、肺炎など重い症状となります。

発症した場合は、検査をおこなって原因菌を確かめ、抗真菌薬を用いて治療します。

普段から健康に気を付け、部屋の換気など生活環境に気を配ることで感染を避けられます。もし感染しても適切な処置を受ければ治るので、自覚症状が出たら病院で診察を受けましょう。