
カポジ肉腫(かぽじ・にくしゅ)
カポジ肉腫は癌(悪性腫瘍)疾患のひとつです。発症する部位は皮膚、粘膜、リンパ節や臓器などです。病変が呼吸器にできると死に至る危険性もある病気です。また、HIV感染症を原因とするエイズの代表的な疾患でもあります。
このページでは、カポジ肉腫の原因、感染経路を解説します。また、症状や検査法から治療方法、そして予防策まで詳しく説明していきます。
カポジ肉腫は全身に癌ができるエイズ指標疾患

カポジ肉腫は、リンパ管または血管のまわりにできる癌(悪性腫瘍)で、エイズ疾患のひとつです。全身のさまざまな部位に腫瘍ができます。
カポジ肉腫の発症部位
- 皮膚
- 消化管
- 口腔内
- 肺
- リンパ節
肺や消化管などに発症すると、呼吸困難を起こして死亡する可能性がある危険な病気です。では、カポジ肉腫は何が原因で感染、発症するのでしょうか?原因、感染経路、症状をそれぞれ見ていきましょう。
カポジ肉腫の原因はHHV8
カポジ肉腫は、ヒトヘルペスウイルス8(HHV8)というウイルスが原因で発症します。HHV8とは、8番目に見つかったヒトヘルペスウイルスという意味です。他に、カポジ肉腫に関連するため、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスや、カポジ肉腫ウイルスとも呼ばれます。HHV8は癌ウイルスで、日本人の約1%が感染しているとされています。しかし、HHV8に感染していても、健康なひとならカポジ肉腫は発症しません。
カポジ肉腫が発症するのは、HIVに感染して免疫不全に陥っているひとです。カポジ肉腫はいわゆる日和見感染症で、代表的なエイズ疾患でもあります。HIVに感染した患者が、日和見感染症であるカポジ肉腫を発症させると、エイズと認定されるのです。
HHV8の感染経路は不明。男性同性愛者に多い傾向
HHV8の正確な感染経路はまだわかっていません。感染経路の手がかりになるのは、カポジ肉腫の患者は、ほとんどが男性の同性愛者だという事実です。つまり、男性同士の性交に多いアナルセックスが、HHV8の感染に関係すると考えられています。
健康な一般的な日本人でも、約1%はHHV8に感染していると考えられています。男性同性愛者以外のひとが1%のなかには女性や非男性同性愛者の男性も含まれています。これらの感染経路についてはまだわかっていません。
カポジ肉腫は全身に癌ができる
カポジ肉腫は全身に癌(悪性腫瘍)を発生させます。カポジ肉腫の初期症状は、皮膚上にできる赤茶色の斑点です。この斑点は、手足や顔、口の粘膜によくできます。初期症状の段階で痛みはありませんが、症状の進行とともに痛みが出てくるケースもあるのです。
カポジ肉腫の病状が進行すると、皮膚にできた斑点の色が濃くなり、膨れ上がってコブになります。また、多くのカポジ肉腫患者の例では、時間が経過するとともに病変が他の部位へと広がっていくのです。病気が進行していくと、肺や食道、腸、胃といった内臓部分にも発症します。
カポジ肉腫がのどや肺にできると、呼吸不全を起こして死に至ることもあります。消化管では、腫瘍から出血したり、穴が開いたりします。消化管にできた腫瘍は、消化管自体をふさいでしまって炎症を発生させるのです。ここまでくると、みぞおちやお腹に強い痛みを感じます。
カポジ肉腫の検査は問診・視診・触診と顕微鏡検査

カポジ肉腫の検査は、問診や視診、触診と、病変部の組織(細胞)を採取した、顕微鏡検査が行われます。また、必要に応じて、肺、気管支、胃腸などに病変ができていないか、さらに詳しい内視鏡検査が行われる場合もあります。
- 問診・視診・触診
- 生体検査(生検)
- 胸部X線
- 気管支鏡検査
- 胃腸内視鏡検査
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
問診・視診・触診
カポジ肉腫が疑われた場合、問診では病歴や手術歴、性行為の有無などを尋ねられます。HHV8やHIVに感染しているかどうか調べるためです。問診のほかには、触診も行います。皮膚とリンパ節、口の中にしこりなどが見られないかを調べます。また、カポジ肉腫は直腸にも発生するため、肛門に指を入れて直腸の中を調べる場合があります。
生体検査(生検)
視診と触診で赤茶色の斑点やしこりが見つかったら、原因がカポジ肉腫かどうか、生体検査(生検)を行います。生体検査では、皮膚の斑点やコブからメスや針などで患部を少し取って、顕微鏡で細胞を検査します。カポジ肉腫ウイルスがないか、細胞を直接調べるのです。
胸部X線
生体検査でカポジ肉腫と診断されると胸部X線を行います。胸部X線検査では、肺にカポジ肉腫がないかを調べます。怪しい影がX線を通してフィルム上に映し出されたら、カポジ肉腫が肺に及んでいる可能性があります。胸部X線で異常が見られた場合は、気管支鏡検査を行います。
気管支鏡検査
気管支鏡検査では、気管と肺の中を観察してカポジ肉腫が発症しているかを調べます。気管支鏡と呼ばれる細いチューブを鼻や口から通して、気管や肺の内部まで挿入して観察します。気管支鏡検査は麻酔をかけて行うため、眠っている間に終わります。鼻や口からチューブを入れますが、咳き込む心配はないので安心してください。
胃腸内視鏡検査
胃腸内視鏡検査では、胃腸にカポジ肉腫を発症させていないかを調べます。肺や気管支と同じく、カポジ肉腫は胃腸にも発症する可能性があるからです。胃腸の内視鏡検査ではスプレーを用いてのどに麻酔をかけ、マウスピースをくわえます。そして、マウスピースを通して内視鏡を口から挿入します。医師がモニターを通してカポジ肉腫のコブなどが胃腸で発症していないか調べるのです。
カポジ肉腫の治療はHAART療法がメイン
カポジ肉腫を発症していた場合は、すぐに治療をはじめましょう。治療の開始が早ければ早いほど、症状を最小限に抑えられます。内臓への発症など重症化も避けられるのです。
カポジ肉腫の治療には3種類の方法があります。
- HAART療法
- 局所療法(放射線療法)
- 全身療法(化学療法)
カポジ肉腫の治療はHAART療法をメインに置きながら、病状に応じて局所療法や全身療法を付け加えます。カポジ肉腫の発症している場所や進行度、患者の健康状態などを視野に入れて治療方法を選ぶのです。
一般的には、以下のように症状を分類し、それに応じて治療法を選びます。

では、それぞれの治療法について見ていきましょう。
HAART療法
カポジ肉腫の治療には、HAART療法が用いられます。そもそもHAART療法は、HIVウイルスの増殖を抑えるための方法です。カポジ肉腫は、エイズ患者の代表的な合併症(日和見感染症)という側面を持ちます。そのため、HIVウイルスを抑制して免疫力を回復させることが、結果的にはカポジ肉腫の治療や予防にも繋がるのです。
1996年にフランスの病院で行われた研究では、HAART療法でカポジ肉腫の症状が改善することもわかっています。免疫力の回復だけでなく、カポジ肉腫の治療としてもHAART療法は有効です。
CONCLUSIONS: HAART appears to have prolonged efficacy on AIDS-KS, even without specific KS therapy, and this effect appears to be linked to the restoration of immune function.
局所療法
カポジ肉腫に対する局所療法として放射線療法が行われます。放射線療法とは、高エネルギーの放射線を患部に当てて癌細胞を死滅させる治療法です。
カポジ肉腫のしこりが皮膚だけにできており、その範囲が狭いときに有効です。しかし、局所治療だけでは新たな病変の発症を防げないという欠点があります。また、皮膚の症状の多くはHAART療法だけで回復します。そのため、放射線療法はHAART療法と並行し、顔などに症状が出た場合、見た目の改善を目的に行われます。
全身療法
カポジ肉腫に対する全身療法として化学療法が行われます。化学療法とは、薬剤を使った癌の治療法です。からだのなかに薬剤を入れて、癌細胞が増えるのを抑え、破壊します。
化学療法が行われるのは、カポジ肉腫の進行が早く、HAART療法だけでは悪化が抑えられないときです。また、カポジ肉腫の症状が呼吸器にあって、呼吸不全を起こす恐れがある場合にも、化学療法が用いられます。
カポジ肉腫はHIV感染症対策で防げる

カポジ肉腫は、HIIV感染症を予防することで、発症を押さえられます。
カポジ肉腫の原因ウイルスはHHV8です。しかし、HHV8に有効なワクチンはなく、感染経路も不明なので、HHV8への感染自体を防ぐことは困難です。一方で、カポジ肉腫はHIV患者が発症する確率が高いこともわかっています。したがって、HIVにさえ感染しなければ、カポジ肉腫は予防できるのです。
Most cases of KS in the United States occur in people with AIDS . Taking measures to avoid becoming infected with HIV could prevent most cases of KS in this country.
カポジ肉腫にかからないためのHIV予防法
- コンドームを着用する
- セックスパートナーをひとりに絞る
- HIV予防としてPrEPを行う
コンドームを着用する
コンドームを着用することはもっとも有効なHIV感染の予防策です。正しくコンドームを着用していれば、性器と粘膜の直接的な接触が避けられます。HIVをはじめ、ほとんどの性病から自身を守れます。コンドームの着用は、膣性交のほか、アナルセックスやオーラルセックスなど、あらゆる性行為でHIVの予防になるのです。
セックスパートナーをひとりに絞る
セックスパートナーをひとりに絞ることも大切なHIV予防策です。自分がパートナーをひとりに絞っていても、そのパートナーが複数人と性的な関係を持っていれば無意味です。パートナーが誰かからHIVウイルスをもらっている危険性があります。「お互いがお互いとしか性行為を行わない」という信頼関係も、HIV感染を予防するために必要不可欠です。
HIV予防としてPrEPを行う
HIVに感染する前から予防薬を飲むこと(PrEP)も有効な対策です。ただし、日本国内では健康保険が適用されない方法なので、まだまだ珍しい予防法といえます。
PrE P(Pre-exposure prophylaxis、暴露前予防投与、プレップ)とは、事前に抗HIV薬を飲んでおくことで感染を防ぐ、HIVの新しい予防法です。PrEPがHIV感染を防ぐ確率は9割程度と、高い効果が明らかになっています。
The investigators in the IPERGAY trial reported the same 86% reduction in HIV incidence using an on-demand regimen of tenofovir disoproxil fumarate–emtricitabine
有益性については、WHO(世界保健機関)もPrEPをHIV感染の予防策として推奨するほどです。ただし、唯一の問題点は高額な費用です。予防薬のツルバダは、1錠(1日分)で4,000円もかかります。PrEPではツルバダを毎日飲むため、単純計算でもひと月に12万円ほどかかります。
カポジ肉腫のまとめ
カポジ肉腫は、HIV感染者が発症する、エイズの代表的な癌疾患です。カポジ肉腫の原因は、HHV8というウイルスです。体の免疫力が下がると、HHV8が増殖してカポジ肉腫を発症します。
カポジ肉腫を治すポイントは、治療を早くはじめることです。肺や内臓などに癌を発症してしまうと、死に至る危険性もあります。皮膚に赤茶色の斑点ができるなど、予兆が見られればすぐに病院へ行きましょう。治療法では、HAART療法などの薬物療法を中心とした全身療法が行われます。
カポジ肉腫は予防できる病気です。カポジ肉腫が発症する原因は、HIVによって免疫力が下がることです。そのため、そもそもの原因であるHIVに感染しないように、性交時にはコンドームを着用しましょう。
まずは自分のできる範囲の予防を行ってみましょう。
参考文献・参考サイト
性病の用語集「カポジ肉腫」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。
- 参考サイト:WHO expands recommendation on oral pre-exposure prophylaxis of HIV infection (PrEP) / WHO
- 参考サイト:カポジ肉腫の治療(PDQ®) / がん情報サイト PDQ®日本語版(患者様向け)
- 出典:Possible new treatment for Kaposi sarcoma / Center for Cancer Research
- 出典:Pre-exposure prophylaxis to prevent the acquisition of HIV-1 infection (PROUD): effectiveness results from the pilot phase of a pragmatic open-label randomised trial - The Lancet
- 出典:Can Kaposi Sarcoma Be Prevented? / American Cancer Society | Information and Resources about for Cancer: Breast, Colon, Lung, Prostate, Skin
- 出典:Long-term efficacy on Kaposi's sarcoma of highly active antiretroviral therapy in a cohort of HIV-positive patients. CISIH 92. Centre d'information... - PubMed - NCBI
- 出典:Bacillary angiomatosis: multiple subcutaneous nodules in a patient with Kaposi sarcoma / HIV/AIDS Dermatological Images - HIV/AIDS