
肝庇護療法(かん・ひご・りょうほう)
肝庇護療法とは、B型肝炎やC型肝炎を治療する方法の1つです。肝庇護療法は主にウイルス性肝炎における治療で、抗ウイルス療法が何らかの事情で行えない場合に用いられます。
このページでは、肝庇護療法についてウイルス性肝炎の観点から解説しています。肝庇護療法の治療目標や薬剤などについて見ていきましょう。
肝庇護療法は肝臓機能を保つための治療法

肝庇護療法とは、肝炎の悪化を防ぎ、肝硬変の進行を抑える治療法です。肝癌の発癌リスクを下げるための治療法といえます。
肝庇護療法は主にB型肝炎やC型肝炎に用いられる治療法です。肝庇護療法の特徴は、ウイルスと共生することです。治療に使われる薬剤は、肝炎ウイルス自体を攻撃したり排除したりはせずに、肝臓自体の機能を高めます。肝臓の細胞を保護することで、肝炎の進行を抑える、状態を保つのです。
肝庇護療法の対象となるのは、以下のような患者です。
- 抗ウイルス療法が行えない
- 薬物耐性の問題
- 他の治療薬との飲み合わせの問題
- 腎機能の問題
- 抗ウイルス療法を希望しない
- 費用や年齢などの問題
肝庇護療法の指標はALTとASTの値を下げること

肝臓の健康状態を知るための指標が、ALTとASTの2つの数値です。どちらも肝機能を調べる血液検査から割り出せます。
ALTとASTの値が高いと肝臓に問題がある
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)とAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は、いずれも肝臓の細胞のなかで作られる酵素です。摂取した栄養を肝臓で使いやすい形に直す役割を持っています。ALTもASTも肝細胞に多く含まれており、細胞が壊れたときに血液中に漏れ出します。ALTは肝細胞のみに、ASTは心臓や腎臓など、肝細胞以外にも存在するのです。ALTとASTの値が高ければ、何かしらの原因で肝臓が破壊されていることがわかります。
慢性肝炎・肝硬変・肝癌・心筋梗塞の危険性がわかる
ALTとASTの基準値は、30IU/L(インターナショナルユニット・パー・リットル)以下とされており、両方の値がそれより高ければ肝疾患の疑いがあります。
項目 | 基準値 | 検査の比率と結果疑われる疾患 |
---|---|---|
ALT | 30 IU/L以下 |
|
AST | 30 IU/L以下 |
ALTがASTより高ければ、慢性肝炎の疑いがあります。逆に、ASTがALTより高ければ、肝硬変や肝癌が疑われるのです。ASTの値がALTの2倍以上あれば肝硬変が、3倍以上あれば肝癌ができている可能性があります。ALTが基準値でASTだけが高い場合は、心筋梗塞など、肝臓以外の病気が疑われます。
肝庇護療法では、薬剤で肝臓の炎症を抑えて、ALTとASTの値が下がることで、治療の効果を判断します。2つの数値が下がれば、肝硬変や肝癌への進行が止まっているとわかるのです。
肝庇護療法で使われる薬剤とその副作用

肝庇護療法の代表的な薬剤は、グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸、小柴胡湯(しょうさいことう)の3つです。
一般名 | 商品名 | 種類 | 用量 | 使用頻度 |
---|---|---|---|---|
グリチルリチン酸一アンモニウム・グリシン・アミノ酢酸・L-システイン塩酸塩水和物 | 強力ネオミノファーゲンシー | 注射薬 | 40~60mL | 1日1回または週2~3回、通院にて注射 |
ウルソデオキシコール酸 | ウルソ | 経口薬 | 600mg | 1日3回 |
小柴胡湯 | 小柴胡湯(漢方薬) | 経口薬 | 7.5g | 1日3回 |
それぞれの薬剤の特徴と副作用を見ていきましょう。
グリチルリチン製剤
グリチルリチン製剤は、慢性化した肝臓の炎症を抑えて、機能や組織の改善に効果を発揮します。
グリチルリチン製剤の主成分はグリチルリチン酸一アンモニウムで、マメ科の薬用植物である甘草(かんぞう)から抽出されます。代表的な薬品は、静脈注射用の強力ネオミノファーゲンシーです。強力ネオミノファーゲンシーには、体の免疫力を高め、肝機能を改善させる効果があります。また、体内でインターフェロンの合成を促進する効果もあります。インターフェロンとは、ウイルスの増殖を抑制するタンパク質です。体内のインターフェロンが増えれば、肝臓の炎症を起こしているウイルスを抑制できます。主な副作用としては、低カリウム血症、高血圧、浮腫などが現れることがあります。
ウルソデオキシコール酸
ウルソデオキシコール酸は、胆汁の分泌を促進して脂肪の消化を助けることで、胃腸の負担を減らします。
ウルソデオキシコール酸は、漢方薬の熊胆(くまのい)の成分を化学的に合成した医薬品です。ウルソデオキシコール酸の代表的な薬品は、飲み薬のウルソです。また、肝臓の血流を促進させる効果もあります。肝臓の血流がよくなることで、肝細胞を保護するのです。この作用により、肝臓の炎症が治まるのです。主な副作用としては、下痢、悪心、嘔吐などの消化器系の症状があらわれます。
小柴胡湯
小柴胡湯(しょうさいことう)は、2000年近い歴史を持つ漢方薬で、肝臓の炎症を抑制します。
主成分の柴胡は、黄芩(おうごん)と組み合わせることで、炎症を鎮める効果を発揮するのです。小柴胡湯の副作用は、食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器系の症状があるものの軽度です。覚えておきたい危険な副作用が、間質性肺炎です。この副作用は、インターフェロン療法を行っている人、または肝硬変・肝癌を発症している人に起こります。1996年には、間質性肺炎を発症させた患者10名の死亡事例がありました。
小柴胡湯の間質性肺炎については,これまで数度にわたり継続的に注意喚起を行ってきたがその後平成10年以降も本剤と関連性が否定できない間質性肺炎が50例(うち死亡例8例)報告されている。肝硬変又は肝癌のある患者に使用されて重篤な転帰をたどる例が多いことから,これらの患者への使用を禁忌とするなど,注意を喚起することとした。
まとめ
肝庇護療法は、肝炎の悪化を抑え、肝機能を保つための治療法です。
肝庇護療法の指標となるのは、ALT・ASTと呼ばれる酵素の数値です。これら2つの数値が肝炎の状態を示しており、基準値の30 IU/L以下とすることを目標としています。
肝庇護療法で用いられる主な薬剤はグリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸、小柴胡湯の3種類です。それぞれを組み合わせることで、より効果を引き出せます。
肝庇護療法は体に負担をかけることなく、肝癌の発症率を下げられる治療法なのです。
参考文献・参考サイト
性病の用語集「肝庇護療法」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。
- 参考資料:標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会 / 厚生労働省:PDF
- 参考サイト:強力ネオミノファーゲンシー静注20mL 強力ネオミノファーゲンシー静注5mL 医療用医薬品 詳細表示 / 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- 参考サイト:ウルソ錠50mg ウルソ錠100mg 医療用医薬品 詳細表示 / 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- 参考サイト:ツムラ小柴胡湯エキス顆粒(医療用) 医療用医薬品 詳細表示 / 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- 参考資料:小柴胡湯の来歴 / 日本東洋医学雑誌 第48巻 第3号 301-318, 1997 / J-STAGE:PDF
- 出典:小柴胡湯と間質性肺炎について / 医薬品・医療用具等安全性情報 No.158 / 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構