公開日
2017/12/18
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鼠径リンパ肉芽腫(そけいりんぱにくげしゅ・そけいりんぱにくがしゅ)は性病・性感染症(STD)のひとつです。国の性病予防法に淋病、梅毒、軟性下疳に続いて4番目の性病として指定されたことから、第四性病と呼ばれています。

国内で鼠径リンパ肉芽腫にかかる人はほとんどいません。海外で感染した人が帰国して発症する輸入感染症だからです。仕事や旅行で海外へ行く機会が増えた現在、あなた自身が海外で感染する恐れがあるだけでなく、帰国した人にうつされてしまう恐れもあるのです。

このページでは、鼠径リンパ肉芽腫の原因や詳しい症状、感染経路について説明します。また、検査法や治療法、予防法についてまでそれぞれ紹介します。

鼠径リンパ肉芽腫は滅多にない性感染症

鼠径リンパ肉芽腫は海外でよく流行する風土病で、国内で発症することはほとんどありません

鼠径リンパ肉芽腫とは、クラミジア・トラコマチスという病原菌が原因で発生してしまう性感染症です。海外でよく流行する風土病で、国内で発症することはほとんどありません。ここでは鼠径リンパ肉芽腫の原因と感染経路、症状を見ていきましょう。

原因はクラミジア・トラコマチスへの感染

鼠径リンパ肉芽腫の原因菌は、クラミジア・トラコマチスと呼ばれる細菌です。

鼠径リンパ肉芽腫を起こす血清型は、リンパ節やリンパ管へ侵入する特徴を持っている

クラミジア・トラコマチスという名前を見ると、性器クラミジアを連想する人も多いかと思います。しかし、性器クラミジアと鼠径リンパ肉芽腫はクラミジアの血清型が違います

クラミジア・トラコマチスの血清型とは、例えるなら、人間の血液型のようなものです。人間の血液型が4種類に分類されるように、クラミジア・トラコマチスの型は18種類に分類されます。18種類のなかでも特定の3種類(L1・L2・L3)が、鼠径リンパ肉芽腫を引き起こすのです。鼠径リンパ肉芽腫を起こす血清型は、リンパ節やリンパ管へ侵入する特徴を持っています。

感染する場所は海外の発展途上国が多い

鼠径リンパ肉芽腫は、さまざまな性行為で感染します。ただし、鼠径リンパ肉芽腫が流行するのは、主に発展途上国です。発展途上国で感染した人が日本に持ち帰ってくることで、鼠径リンパ肉芽腫は輸入性感染症といわれています。

鼠径リンパ肉芽腫は膣性交をはじめ、オーラルセックスやアナルセックスによって感染します。また、コンドームを着用していても、患部が性器からふともものVライン近く( 鼠径部リンパ 節)にかけて広いため、カバーできず感染してしまうのです。

鼠径リンパ肉芽腫は膣性交をはじめ、オーラルセックスやアナルセックスによって感染します

鼠径リンパ肉芽腫は、アフリカ・東南アジア・南米など、発展途上国の風土病とされています。日本に住んでいれば、鼠径リンパ肉芽腫にかかることはほとんどありません。

日本での感染者が極端に少ないことは、厚生労働省が行った「伝染病統計調査」の結果からわかります。この調査によると、1992年から1998年の間、鼠径リンパ肉芽腫の患者は年に1人ずつしかいませんでした。

日本で鼠径リンパ肉芽腫を発症させた人は、海外で性行為を行っていた背景があります。海外で鼠径リンパ肉芽腫に感染し、日本に持ち帰っています。鼠径リンパ肉芽腫が輸入性感染症いわれる所以はこのためです。

症状は段階を経て重症化する

鼠径リンパ肉芽腫の症状は、大きく3期(3段階)に分類されます。発症から時間が経つにつれて、症状の範囲が広がって重症化していくのです。第1期から第3期まで、それぞれの症状をみていきましょう。

第1期

第1期の初期症状があらわれるまで、潜伏期間は約1週間ほどです。初期症状として、男女ともに性器周辺に小さな水疱や潰瘍があらわれます。水疱や潰瘍は、痛みはほとんどなく、症状はすぐに治まります。そのため、初期症状で気付くのは難しく、第2期の症状まで悪化してから気付くことが多いのです。

第2期

第2期は、男女ともに発症から約2週間後です。鼠径リンパ節が腫れあがります。これは第1期では性器にあった細菌が、鼠径リンパ節に移動することが原因です。細菌が移動してくると、鼠径リンパ節の腫れによって、圧迫されたような痛みを感じます。この症状がひどくなるとリンパ節が化膿して、皮膚に穴が開いて、膿が出てくるのです。また、発熱や倦怠感などの 体調不良がみられます。

女性の場合は、上の症状に加えて背部痛や骨盤に痛みを感じることもあります。女性特有の器官である、子宮頸部や腟の上部に病変ができることが多いためです。子宮頸部や腟の上部の病変によって、直腸の周りに炎症が起きたり、骨盤リンパ節が腫れあがったりします。女性が背中や腰、骨盤周囲が痛みを感じるのはこのためです。

第3期

第3期は、発症してから1年ほど経過した頃です。男女ともに直腸に症状が出てきます。直腸に膿が溜まったり、腸管が狭くなったり、腸管に穴が開いたりする症状が見られます。細菌が鼠径リンパ節を通じて直腸まで広がるからです。

これらの症状は女性のほうが早くあらわれやすいといわれています。女性は直腸の周りおよび骨盤リンパ節から悪化していくことが理由です。男性でも肛門から感染した場合は、直腸への変化が早くから出ます。肛門から感染すると、最初の段階で骨盤リンパ節にも感染します。そのため直腸へも早く影響が出てしまうのです。アナルセックスにより感染した場合は、感染初期からこの第3期の症状がでます。

鼠径リンパ肉芽腫の検査は視診と血液検査

鼠径リンパ肉芽腫の検査で異常があれば血清検査を行い細菌を特定します

鼠径リンパ肉芽腫の検査は、問診・視診・触診にて行われます。そして異常が見られれば、血清学的検査を行い、細菌を特定します。

問診・視診・触診

問診・視診・触診で下記に該当すれば、鼠径リンパ肉芽腫の感染が疑われます。

  • 鼠径リンパ肉芽腫がよく見られる海外の地域へ訪問したか
  • 海外で現地の人と性的な接触があったか
  • 鼠径リンパ肉芽腫の特徴的な症状があるか

以下より、リストの内容についてそれぞれ説明します。

鼠径リンパ肉芽腫がよくみられる海外の地域へ訪問したか

数か月以内に海外へ行ったかどうか、医師から確認されます。

ただ海外に行っただけでなく、どの国や地域に訪れたのかという点が重要です。東南アジアや南米、アフリカなどの発展途上国に行ったことがあれば、鼠径リンパ肉芽種の可能性が高いです。鼠径リンパ肉芽腫の患者は日本ではほとんどおらず、診察や治療の経験がある医師も少数です。このような理由から、医師が症状を見ただけでは鼠径リンパ肉芽腫かどうか判断できない場合があります。「海外のどの国へ行ったか」という情報があれば、より正確に診断できるのです。

渡航先で現地の人と性的な接触があったか

海外へ行っただけでなく、現地の人と性的な接触があれば、鼠径リンパ肉芽腫にかかっている可能性がさらに高まります。性的な接触の有無は、性病ではないリンパ節炎との区別の参考にもなります。現地で性的な接触がなければ、鼠径リンパ肉芽腫の可能性はほぼなくなるでしょう。

鼠径リンパ肉芽腫の特徴的な症状があるか

性器の潰瘍や鼠径リンパ節の腫れは、鼠径リンパ肉芽腫の特徴の1つです。また、鼠径リンパ肉芽腫には患部に穴が開き、そこから膿が出ているなどの特徴もあります。そして、直腸炎も鼠径リンパ肉芽腫の第3期の特徴的な症状です。こちらも鼠径リンパ肉芽腫への感染を判断する、重要な手がかりになります。

上記3つの項目に当てはまっていた場合、鼠径リンパ肉芽腫にかかっている可能性が高いのです。

血清学的検査(血液検査)

問診や視診で鼠径リンパ肉芽腫が疑われれば、血清学的検査(血液検査)を行います。血清学的検査でクラミジア・トラコマチスに対する抗体が見つかれば、鼠径リンパ肉芽腫の感染が確定です。人間は体内に細菌やウイルスが入ると、抗体を作って体を守ろうとします。血清学的検査では、感染によって生じた抗体があるかどうかを調べられるのです。

鼠径リンパ肉芽腫の治療は抗菌薬を服薬

鼠径リンパ肉芽腫の治療法は主に抗菌薬を服用する

鼠径リンパ肉芽腫の治療法は、抗菌薬(抗生物質)の服用です。主にドキシサイクリン、エリスロマイシン、アジスロマイシンを主成分とした薬を用います。

これらの抗菌薬を飲めば、鼠径リンパ肉芽腫はほぼ完治します。抗菌薬でリンパ節の腫れが引かない場合は、針などを使用して膿を排出させて腫れを引かせる方法が取られます。

【鼠径リンパ肉芽腫に有効な抗菌薬一覧】
一般名 商品名 用量 服用頻度 服用日数
ドキシサイクリン ビブラマイシン錠 100mg 毎日2回 3週間(21日)
エリスロマイシン エリスロマイシン錠 500mg 毎日4回
アジスロマイシン ジスロマック錠 1000mg 毎週1回 3週間

ドキシサイクリン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、それぞれの特徴です。

ドキシサイクリン
テトラサイクリン系の抗菌薬
マイコプラズマやクラミジア、リケッチアにも有効
鼠径リンパ肉芽腫の治療に最適とされている
妊娠中や授乳中の女性には向かない
エリスロマイシン
マクロライド系の抗菌薬
マイコプラズマやクラミジアに有効
胃酸に不安定で、吸収性がよくないため服用回数が多い
妊娠中や授乳中の女性に処方される
アジスロマイシン
マクロライド系の新しい抗菌薬
臨床データが不足しているため、妊娠中や授乳中の女性に対する処方量はが決まっていない
鼠径リンパ肉芽腫以外にも、さまざまな細菌を効果的に殺菌する

鼠径リンパ肉芽腫の予防もやっぱりコンドーム

コンドームが有効なのは、パートナーの病変部が性器であるとき

鼠径リンパ肉芽腫の予防法はシンプルです。海外へ行ったとき、鼠径リンパ肉芽腫が流行している地域の人との性交を避ければ、確実に予防できます。とは言うものの、そんなことは鼠径リンパ肉芽腫に限ったことではありません。性交を前提に、鼠径リンパ肉芽腫の感染を防ぐ方法はないのでしょうか?

すべての鼠径リンパ肉芽腫が防げるとは言い切れないものの、やはり予防にはコンドームが役立ちます。コンドームが有効なのは、パートナーの病変部が性器であるときです。病変部が性器だけなら、コンドームを着用することで、接触が防げます。しかし、鼠径リンパ肉芽腫の症状は、股関節のまわりにまで広がることが多々あります。いくらコンドームをしていようが、病変部を覆い隠せなければ意味がありません。コンドームが有効なのは、病変部がコンドームで隠せる範囲に限定されます。

やはり完璧に予防するためには、鼠径リンパ肉芽腫が流行っている地域の性風俗産業を利用しないなど、現地のひととの性行為をできるだけ避けましょう。

鼠径リンパ肉芽腫のまとめ

鼠径リンパ肉芽腫は性行為によって感染します。国内で鼠径リンパ肉芽腫に感染した例はほぼありません。アフリカや東南アジア、南米などでは風土病として一般的です。

感染すると、足の付け根近くの鼠径リンパ節が腫れ上がります。重症化すると、リンパ節から膿や血液が出てきたり、体調を崩す原因になるのです。「足の付け根が膨らんできて痛い」など、少しでも異常を感じたらすぐに医療機関に行きましょう。鼠径リンパ肉芽腫は、抗菌薬で適切に治療すれば、3週間ほどの期間で治ります。

鼠径リンパ肉芽種の予防にはコンドームが有効です。ただし、病変部をコンドームで覆い隠せるときに限るため、範囲が広ければ効果はありません。鼠径リンパ肉芽腫の感染を避けるには、「現地の人との性行為をしない」ことがもっとも大切です。

参考文献・参考サイト

性病の用語集「鼠径リンパ肉芽腫」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。