公開日
2017/11/17
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せきや鼻水、のどの痛み、体がだるい……。ただの風邪かと思っていたら、いつまでも完治しない……。それは風邪ではなく、別の病気かもしれません。

マイコプラズマ肺炎は、文字通りマイコプラズマと呼ばれる細菌が引き起こす感染症です。気管から肺にかけて増殖し、発熱やせきといった初期症状からはじまります。ありふれた風邪だと思って放置していると、いつまでもせきが続き、重い病気につながることもあるのです。

このページでは、そんなマイコプラズマ肺炎の特徴から、いざというときの対処法まで解説していきます。

マイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマは真性細菌の一種

マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は真性細菌の一種で、生物の細胞にとりついて増殖します。マイコプラズマが気管や肺に感染し、炎症を起こす病気を「マイコプラズマ肺炎」といいます。肺炎球菌などによって起こる典型的な肺炎とは区別され、非定型肺炎ともいわれます。

マイコプラズマ肺炎に感染すること自体は珍しくありません。14才までに80%、成人するまでに97%が感染するといわれているのです。感染しても免疫はあまり維持されず、何度か感染を繰り返すことがあります。

マイコプラズマ肺炎にかかりやすい時期は、11月から3月の間です。4年周期で流行することが多かったため、以前はオリンピック病とも呼ばれていました。とはいえ、現在はその傾向は崩れつつあり、断続的に流行しています。

乳幼児や高齢者が感染しても、多くは気管支炎などの軽い症状で済みます。肺炎症状が起こりやすくなるのは小学生からで、青年期や成人ほど重症化しやすくなります。これは若い人ほど体の免疫が強く、侵入した病原体に対して過剰に反応する結果、生じる炎症も強まるからです。

症状

マイコプラズマ肺炎の初期症状は風邪のような症状

上述のとおり、マイコプラズマ肺炎は風邪のような症状からはじまります。マイコプラズマに感染して1週間から4週間ほど経つと、初期症状が出はじめるのです。具体的にどのような初期症状が出るのか、以下のリストで見てみましょう。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 頭痛
  • 咽頭痛
  • 鼻づまり

これらの初期症状があらわれてから数日で、たんの絡まない乾いたせきが出はじめます。5日ほど経つと熱は下がっていきますが、せきは徐々に強まって3週間から4週間は続きます

幼児が発症すると鼻炎の症状が目立ちます。もともと喘息にかかっている場合、症状の悪化や発作の原因となります。

年長児や青年の場合、せきがだんだんと湿ったものになっていきます。せきは夜から明け方にかけてひどくなります。これは、夜になると副交感神経が働き、気道が狭まって敏感になるためです。

マイコプラズマ肺炎が重症化した場合、呼吸不全や胸水が溜まるといった症状が起こります。また体内で感染が広がることで、臓器や皮膚、神経などに数多くの合併症を引き起こすリスクを伴うのです。

マイコプラズマ肺炎よって起こる合併症に注意

マイコプラズマ肺炎によって起こる代表的な合併症には、以下のようなものがあります。

  • 中耳炎
  • 無菌性髄膜炎
  • 脳炎
  • 肝炎
  • 膵炎
  • 溶結性貧血
  • 心筋円
  • 関節炎
  • ギランバレー症候群
  • スティーブン・ジョンソン症候群

また、後遺症として肺化膿症や膿胸、劇症型マイコプラズマ肺炎になる可能性もあります。

マイコプラズマ肺炎は、その症状から風邪だと誤認されやすい病気です。乳幼児や高齢者なら軽い症状で終わることが多いですが、放置しているとまれに重症化することもあります。若年者や成人はより重症化のリスクが高く、慢性化につながるおそれもあるのです。

マイコプラズマ肺炎の症状が悪化すると、それだけ合併症を引き起こすリスクも高まります。せきや鼻水、頭痛などの症状があらわれたら、自己判断で風邪と決めつけず、病院で診察を受けてみましょう。

感染する原因

マイコプラズマ肺炎の感染は飛沫感染と接触感染

マイコプラズマ肺炎の主な感染経路は、飛沫感染接触感染です。

飛沫感染とは、感染者のせきやくしゃみで空気中に飛び散ちった細菌を吸い込むことによる感染です。

接触感染は直接、または間接的に病原体に接触することによる感染です。菌が付着したものに触れるほか、感染者との濃厚接触が感染の原因となります。濃厚接触とは、感染した人と会話できるくらいの距離で共にいたり、感染者の体液などに触れたりすることです。

マイコプラズマ自体に強い感染力はありません。しかし、発症するまでの潜伏期間が長いという特徴があります。そのため、家族や友人が感染していることに気づかず共に過ごし、知らず知らずのうちに感染してしまうことがあるのです。

喫煙がマイコプラズマ肺炎の感染を助長する

習慣的に喫煙をしていると、マイコプラズマ肺炎はもちろん、肺炎自体にかかるリスクが高まります。それは、タバコの刺激によって、繊毛(せんもう)の働きが鈍ってしまうからです。

健康な状態の上皮細胞煙草の煙をちゅうにゅうされた状態

通常、気道に病原体が侵入すると気管支から分泌される粘液がそれをからめとり、繊毛の働きによって排出されます。しかし、喫煙によって繊毛の動きが鈍くなると菌の排除が正常に行われず、結果として感染しやすくなるのです。

タバコの吸いすぎは、マイコプラズマ肺炎にかかる要因となるので注意しましょう。

マイコプラズマ肺炎は母子感染しない

妊娠中の女性がマイコプラズマ肺炎にかかっても、お腹のなかの子供には感染しません

免疫が低下する妊娠初期は、マイコプラズマ肺炎にかかりやすいとされています。しかし妊婦がマイコプラズマに感染しても、赤ちゃんにうつることはありません。気道に感染したマイコプラズマは、胎盤には移動しないからです。ただし、せきや発熱によって母体が弱れば、胎児の発育に影響する場合もあります。

マイコプラズマ肺炎は母子感染しないので、妊娠中にかかっても冷静に対処しましょう。胎児の成長に悪影響を及ぼさないよう、早めに治療を受けることが大切です。

検査・診断

マイコプラズマ肺炎の診察では、聴診器を使って肺に異常がないか確認します

マイコプラズマ肺炎は、聴診や検査によって診断されます。似たような肺炎もあるため、基本的にはいくつかの方法で診断するのです。マイコプラズマ肺炎の検査では、肺の様子を見たり、体液からマイコプラズマを探したりします。

聴診

聴診では、聴診器で肺の異常を確認します。普通の肺炎の場合、気管支や肺胞でたんの絡むような雑音が聞こえます。しかしマイコプラズマ肺炎であれば、多くの場合は特有の雑音が聞こえません。マイコプラズマ肺炎でも雑音がするのは、症状が長引いて炎症が広がっているときです。

聴診だけでマイコプラズマ肺炎だと確定するのは難しいため、以下より説明する検査も行っていきます。

画像検査

画像検査ではレントゲンを撮って肺のなかを調べ、肺炎かどうかを見極めます。肺のなかに特徴的な影があれば、肺炎が起こっていることがわかります。しかし、肺真菌症やクラミジア肺炎などでも似た影が見られるため、この段階では肺炎を引き起こしている病原体の種類まではわかりません。画像検査では、肺炎であることを診断するにとどまります。

体液を用いる検査

マイコプラズマの検査方の1つに培養検査があります

肺炎であることがわかったら、次は体液などを詳しく調べる検査を行います。ここで、マイコプラズマに感染しているかどうかを確認するのです。主に用いられる検査法について、詳しく見ていきましょう。

主に用いられる検査法は「LAMP法」と「プライムチェック」

マイコプラズマ肺炎の検査はいくつかあり、もっとも多く用いられる方法はLAMP法プライムチェックです。この2つの検査は精度が高く、短い時間で結果がわかります。では、LAMP法とプライムチェックの特徴などを見ていきましょう。

検査法の名称 検査に使う体液(検体) 検査結果が出るまでの時間
LAMP法 咽頭ぬぐい液 2~3日
プライムチェック 咽頭ぬぐい液 10分

これら2つの検査では、咽頭ぬぐい液を用いてマイコプラズマに感染しているかどうかを調べます。咽頭ぬぐい液とは、綿棒でのどをこすって採取した体液です。プライムチェックなら結果が出るまでの時間は10分と、かなりスピーディーにマイコプラズマの有無を検査できます。ただ、LAMP法に比べると精度が低いのがネックです。LAMP法は精度が高く、結果も2日から3日で出るため、とても便利な検査法です。

これらの検査だけでマイコプラズマが見つからなかった場合、血液検査尿検査培養検査などを行う場合もあります。しかし、血液検査や尿検査は、精度が低いという問題があります。培養検査では確実にマイコプラズマを見つけられるものの、結果が出るまでに1週間以上かかるというのが難点です。

マイコプラズマ肺炎の検査法はいくつかありますが、それぞれ一長一短です。そのなかで検査の精度がより高く、短時間で結果が出るLAMP法とプライムチェックが主流となっています。

治療

マイコプラズマ肺炎の治療では抗菌薬を用いるのが基本です

マイコプラズマ肺炎は、細菌が感染して起こる感染症です。そのため、治療では細菌の繁殖を抑えることがメインとなります。マイコプラズマ肺炎の治療について、使う抗菌薬の種類や治療費を紹介します。

抗菌薬による治療

マイコプラズマ肺炎の原因菌である「マイコプラズマ」は、細菌に分類されます。そのため、治療では抗菌薬を用いるのが基本です。主に、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系の抗菌薬が使われます。この3種類の特徴について、リストで説明します。

マクロライド系
マイコプラズマ肺炎の第一選択薬
細菌のタンパク質合成を阻害して増殖を抑制する
テトラサイクリン系
マクロライド系と同じ作用で効果は高い
副作用が出やすいため、マクロライド系ほど頻繁には使われない
ニューキノロン系
上の2剤よりも新しく開発されたので耐性を持つ菌が少ない

基本的に、マクロライド系が第一選択薬として使用されます。しかし近年では、マクロライド系の抗菌薬が効かない耐性菌が増加しているため、万能ではありません。感染したのが耐性マイコプラズマだった場合、ほかの2種のいずれかを使って治療します。マイコプラズマ肺炎の治療に用いられる具体的な抗菌薬は以下です。

具体的な抗菌薬の名前

こども向けのマクロライド系抗菌薬
エリスロマイシン
クラリスロマイシン
ロキシスロマイシン
アジスロマイシン
おとな向けの抗菌薬
ドキシサイクリン(テトラサイクリン系)
エリスロマイシン(マクロライド系)
レボフロキサシン(ニューキノロン系)

例えば患者が子どもの場合、テトラサイクリン系は歯の変色や骨の発育不全といった悪影響を及ぼすため、使われません。しかし、感染した菌がマクロライド系に耐性を持っている場合、短期間に限ってテトラサイクリン系が使われることもあります。

このように、抗菌薬は患者や耐性菌に応じて使い分けられるのです。

入院治療について

マイコプラズマ肺炎の症状が重くなった場合は入院治療が必要です

マイコプラズマ肺炎の症状が重かったり、合併症を引き起こしたりという場合、入院治療が必要です。入院による治療が検討されるのは、以下のような症状がみられる場合です。

  • 38℃以上の高熱が下がらない
  • 水分が摂れず脱水状態になっている
  • せきがひどくて眠れない
  • 食欲不振になっている
  • 髄膜炎、胸膜炎ほか重い合併症の可能性がある

入院してマイコプラズマ肺炎を治療する際、抗菌薬のほかに免疫を抑制するステロイド剤が用いられることがあります。呼吸に支障がある場合は酸素吸入も行われます。入院の期間はおよそ3日から7日です。症状の重さによっては、2週間から1カ月以上入院が必要な場合もあります。

マイコプラズマ肺炎は、軽い症状なら自然治癒することも珍しくない病気です。しかし、重症化すると入院が必要なケースもあります。

治療費について

マイコプラズマ肺炎の治療費は2,000円から10,000円が目安

マイコプラズマ肺炎の治療費は、通院する場合と入院する場合で変わります。それぞれの治療費の目安を見ていきましょう。

通院する場合

マイコプラズマ肺炎の治療にかかる費用は、病院によって異なります。また、患者の症状や保険の有無といった条件でも変動するのです。

通院してマイコプラズマ肺炎を治療する場合の費用は、2,000円から10,000円が目安です。これは保険が適用されたときの目安なので、保険がなければさらに費用がかかります。

受診した病院によって検査法の種類なども違い、かかる費用が変わります。症状の重さにより、処方される薬の種類や量も違うのです。

入院する場合

入院しなければならないほど症状が悪化してしまうと、通院の場合よりもかなり高額な費用がかかります。

入院日数などの条件によって変わってきますが、費用の目安はおよそ10万円から20万円です。入院に伴う高額な費用の一部を負担してくれる制度があるので、いざというときのために確認しておきましょう。

高額療養費制度

高額療養費制度とは、加入している公的医療保険に申請書を出すと、医療費の支給が受けられる制度です。申請書を出せば、決められた月の上限額を超えた分の医療費が、あとから支給されるのです。上限額は年齢や所得によって変わります。

また、子供がマイコプラズマ肺炎にかかった場合、子供を対象とした医療費助成制度を受けられます。済んでいる地域や自治体によって、条件や支給額などの詳細は変わります。「その地域の住民票をもっている」「国内の健康保険に入っている」など、条件は難しくありません。医療費助成制度が適用される年齢は、0才から15 が一般的です。地域によっては、18才まで適用の範囲となっているところもあります。

もしマイコプラズマ肺炎で入院が必要になったら、高額療養費制度も利用しましょう

感染を防ぐための対策

マイコプラズマをほかの人に感染させないようにせきエチケットしてください

マイコプラズマ肺炎は、菌が気道に入ることで起こる病気です。手洗いやうがいなど、感染症の基本的な対策で予防できます。免疫力が下がっていると感染しやすくなるため、十分な睡眠や栄養を摂ることも意識しましょう。

また、マイコプラズマは潜伏期間が長いので、感染してから気付くまでに時間がかかります。自分からほかの人に感染させてしまうのを防ぐため、流行する時期は「せきエチケット」にも気をつけてください。症状がひどければ、出勤・出席停止となる可能性もあります。

ここから、マイコプラズマの感染を広げないための対策を紹介します。

せきエチケットで感染拡大の対策を

マイコプラズマ肺炎の流行期とされる11月から3月は、他の感染症にもかかりやすい時期です。特にこの時期は、菌の飛沫感染を防ぐため、「せきエチケット」にも気をつかいましょう。せきエチケットとは、厚生労働省が提唱した、せきやくしゃみに関するマナーのことです。以下、リストで紹介します。

  • せきやくしゃみをするときは、しぶきを飛ばさないようにティッシュなどで口と 鼻をおおう
  • せきゃくしゃみをするときは、なるべく周りの人から顔をそむけて1m以上離れる
  • 使用したティッシュはすぐに捨てる(できればフタのついたゴミ箱)
  • せきやくしゃみが続くときはマスクを着用する
  • マスクやティッシュがないときは、服のすそや上着の内側などで受けとめる

参考ːインフルエンザの基礎知識 / 厚生労働省

せきエチケットは、もとはインフルエンザ対策として作られましたが、さまざまな感染症の対策になります。マイコプラズマ肺炎が流行している時期はせきエチケットに気を付け、周囲で感染が広がるのを防ぎましょう。

出勤・出席停止期間について

マイコプラズマ肺炎にかかった場合、会社や学校への出勤・出席停止の期間が設けられることがあります。患者の病状の回復はもちろん、マイコプラズマの感染が広がるのを防ぐためです。

会社の場合、出勤停止とその期間について明確な規定はありません。医師の判断や会社の規定により、休むよう指示される場合と、軽度なら出勤できる場合があります。出勤停止となった場合、復帰するのに診断書や治癒証明書が必要になることもあります。

学校の場合は「学校保健安全法」によって、医師から感染のおそれがないと判断されるまで出席停止が必要とされています。

会社や学校の決まりに従って休みをとり、マイコプラズマ肺炎の感染を広げないようにしましょう。

まとめ

マイコプラズマ肺炎は、細菌のマイコプラズマが気道から肺にかけて増殖することで起こる感染症です。マイコプラズマへの感染は11月から3月に多くみられ、年齢に関係なくかかります。マイコプラズマ肺炎の主な感染経路は、接触感染飛沫感染です。マイコプラズマに感染した人に触れたり、感染した人のせきやくしゃみで菌が飛んできたりすると感染します。

マイコプラズマに感染したあと、1週間から4週間ほどで症状が出はじめます。症状は風邪とよく似ていますが、せきが長期にわたって続くという特徴があります。風邪と思い込んで放置すると、慢性化や重症化、合併症などを引き起こすこともあるのです。

マイコプラズマ肺炎の治療には抗菌薬を使います。症状が重い場合、3日から1週間、長ければ1カ月以上の入院治療も検討されます。入院の費用はおよそ10から20万円ですが、高額療養費制度を利用すれば負担する額を抑えられます。

他の感染症と同じく、日ごろから衛生面に気を付けることがマイコプラズマ肺炎の予防になります。特に流行しやすい季節はせきやくしゃみで感染を広げないよう、せきエチケットを心掛けましょう。