
寄生虫(きせい・ちゅう)
寄生虫はグロテスクで変わった生き物として、テレビや本でしばしば取り上げられます。寄生虫の中には、人間にとって有益な種類もいれば、人間に寄生して病気を引き起こす種類もいます。
今回のテーマは、病原体としての寄生虫です。まずは、寄生虫の生態や種類について解説します。寄生虫による感染症と、その治療法と予防法も見ていきましょう。
寄生虫はどんな生き物?

寄生虫は、他の生物に依存して生活している生物です。原虫や線虫、条虫など、様々な種類がいます。寄生虫がとりつく対象となる生き物は「宿主(しゅくしゅ)」と呼ばれます。
寄生虫は宿主の組織を食べたり、血を吸い取ったりして成長していきます。そして成熟すると産卵、あるいは分裂するのです。宿主の体内でそのまま成長する種類もいれば、宿主を離れて新しい宿主を探す種類もいます。寄生虫は形や寄生する場所、増殖のしかたなど多種多様ですが、いずれも宿主の養分に依存しているのが共通点です。
寄生虫は種類によって、繁殖していく過程で病気を引き起こします。宿主の体を深刻な状態に追い込み、結果的に殺してしまうこともあるのです。
内部寄生虫と外部寄生虫
寄生虫は、宿主に寄生する場所により、大きく2種類に分けられます。体内に寄生する種類は内部寄生虫、体外に寄生する種類は外部寄生虫と呼ばれるのです。この2種について、以下より見ていきましょう。
内部寄生虫

内部寄生虫は、特定の宿主の体内に住みつき、増殖します。多くの内部寄生虫が成長すると宿主を離れ、別の宿主へと移るという特徴を持つのです。ある程度に成長するまで寄生する生物を中間宿主、成熟して卵を産むときに寄生する生物を終宿主といいます。
特定の宿主の体内でしか成長できない
内部寄生虫が成長できるのは特定の宿主のみで、それ以外の生物に寄生すると、成熟も繁殖もできません。成長できない幼虫は体内をはい回り、肺や心臓、ときには脳に入り込んで重篤な症状を引き起こすのです。このような経緯で起こる病気を幼虫移行症といいます。なぜ内部寄生虫が、本来の宿主でない生物の体内に侵入すると成長できないのか、理由ははっきりしていません。
外部寄生虫

外部寄生虫は宿主の体表にとりつくタイプの寄生虫で、大半がノミやシラミなどの節足動物です。
外部寄生虫は宿主の血を吸ったり、皮膚の組織を食べたりします。その際に唾液が人間の体内に注入され、アレルギー反応が起こり、かゆみや皮疹が引き起こされるのです。かゆみは不快ではあるものの、命には関わりません。しかし、一部の外部寄生虫は、自分が持っている別の病原体を宿主にうつします。寄生虫から病原体がうつってしまうと、多くの場合は重い症状が引き起こされるのです。
寄生虫の感染経路

寄生虫は様々な経路をたどって宿主に寄生します。主な感染経路は、口を通して寄生虫が体内に入る経口感染と、寄生虫が皮膚にとりつく経皮感染です。食べものを通じて体内に入ったり、自ら移動して宿主にとりついたりします。
口から入りこむ経口感染

経口感染するのは内部寄生虫です。寄生虫が口から体内に入る経路は、大きく分けて2つあります。順番に見ていきましょう。
生の魚介類や食肉からの感染
寄生虫に感染しないためには、生で魚介類や食肉を食べるのはやめましょう。魚介類、豚や牛などの食肉にされる動物の体内には、寄生虫がしばしば住みついています。それらを加熱せず生で食べると、肉の中に潜んでいた寄生虫に感染してしまうのです。
有機野菜からの感染
動物だけでなく、有機野菜にも寄生虫がついている可能性があります。その理由は、有機野菜に使われている肥料に、寄生虫が混じっている可能性があるからです。寄生虫が宿主の体内で繁殖すると、幼虫や卵が便とともに排出されます。その糞便が使われている肥料を使っていると、農作物にも寄生虫が付着してしまうのです。
皮膚にとりつく経皮感染

経皮感染するのは、基本的に外部寄生虫です。宿主が近づくと皮膚にとりつき、その場に住みついたり、栄養だけを取って離れたりします。また、内部寄生虫のなかにも、皮膚から体内に入りこむ種類がいるのです。
感染経路はさまざま
寄生虫は林や茂みといった自然環境だけでなく、身近な家屋やビルなど、さまざまな場所に生息しています。また、ペットや野生動物についている寄生虫が、人間にとりつくこともあるのです。このように、外部寄生虫は多様な感染経路で私たちの体にやってきます。特に動物を飼っている人は、ペットに寄生虫がつかないよう、細心の注意を払いましょう。
代表的な寄生虫と症状

寄生虫は宿主の体内や皮膚に寄生し、悪影響を及ぼします。宿主の栄養を横取りしたり、体の組織を傷つけたりすることで、様々な症状を引き起こすのです。このように寄生虫が原因の病気を寄生虫症と呼びます。
以下より、感染症を起こす寄生虫のうち、代表的な種類を紹介します。
内部寄生虫の種類と症状

ほとんどの内部寄生虫は腸に入り、宿主から栄養をとったり、腸壁を傷つけたりします。そのため、内部寄生虫に感染すると、多くは腹痛や下痢などの消化器系の症状が出ます。代表的な内部寄生虫の種類と、人間に引き起こされる症状を見ていきましょう。
内部寄生虫の種類・特徴・症状
- アニサキス
- 特徴:魚介類から感染
- 症状:激しい腹痛や悪心、嘔吐
- エキノコックス
- 特徴:キツネや犬から感染
- 症状:肝臓腫大や黄疸、腹水
- 赤痢アメーバ
- 特徴:性行為による感染
- 症状:粘血便やしぶり腹
- トリコモナス
- 特徴:性行為による感染
- 症状:悪臭を伴う帯下・性器のかゆみ(女性)、ほぼ無症状(男性)
アニサキスは食中毒の原因としてよく知られており、刺身を好んで食べる日本人に感染しやすい寄生虫です。エキノコックスは、キツネが生息している北海道での感染が多く見られます。赤痢アメーバやトリコモナスは性感染症の原因です。
このように、内部寄生虫は、人間の臓器に様々な悪影響を及ぼします。
外部寄生虫の種類と症状

外部寄生虫は、人体の外側に住みつき、かゆみなどを引き起こします。また、別の病原体を広げる「媒介者」という一面もあり、重い病気の原因にもなるのです。ここでは、シラミやダニの主な種類、人間に引き起こされる症状を紹介します。
外部寄生虫の種類・特徴・症状
- アタマジラミ
- 特徴:頭髪に住みつき、頭皮から吸血
- 症状:かゆみ
- コロモジラミ
- 特徴:下着に住みつき、皮膚から吸血・発疹チフスなどの感染症を媒介
- 症状:かゆみ
- マダニ
- 特徴:自然環境に多く生息するため、アウトドアシーズンに被害拡大・日本紅斑熱などの感染症を媒介
- 症状:かゆみや痛み
- ビゼンダニ
- 特徴:皮膚の角質に住みつき、穴を掘る
- 症状:疥癬(かいせん)と激しいかゆみ
アタマジラミは、その名の通り頭に寄生するシラミで、子供がよく感染します。コロモジラミは皮膚のかゆみを引き起こすとともに、発疹チフスなどの重大な感染症を媒介するのです。マダニは外で寄生されることが多く、日本紅斑熱などの感染症を媒介します。ビゼンダニは人の皮膚に穴を掘り、そこに卵を産み付けて繁殖するのです。
外部寄生虫が引き起こす症状は主にかゆみなので、命にはかかわりません。しかし、ときには別の感染症を人間にうつすことがあるため、油断は禁物です。
寄生虫症は薬による治療が基本

寄生虫症にかかったら、飲み薬で治療します。しかし、寄生虫の種類によっては、飲み薬が適さない場合もあるのです。寄生虫の様々な治療法を紹介します。
寄生虫症を治す駆虫薬

寄生虫症の薬は駆虫薬、または虫下しといわれます。以下は、代表的な駆虫薬をまとめた表です。
治療薬 | 適応症(寄生虫) | 効果 |
---|---|---|
フラジール |
|
寄生虫のDNAを切断して殺す |
コンバントリン |
|
寄生虫を麻痺させる |
メベンダゾール |
|
寄生虫の細胞の機能を壊す |
寄生虫は種類によって性質が大きく異なるため、様々な作用を持つ駆虫薬が開発されています。例えば、アメーバ赤痢の治療薬であるフラジールは、DNAを切断して寄生虫の増殖を防ぎます。増殖が止まった赤痢アメーバは、便と一緒に流れるか、免疫機能に駆逐されて体内から排除されるのです。
駆虫薬が使えないときの治療法

症状が軽い、あるいは何らかの理由で駆虫薬を使えない場合は、対症療法をおこないます。発熱やかゆみといった症状を薬で抑えながら、体の免疫によって寄生虫が自然に排除されるのを待つのです。
寄生虫の中には、駆虫薬では退治できない種類も存在します。例えば、アニサキスは効果的な駆虫薬が開発されていません。そのような場合は内視鏡を使うか、外科手術によって寄生虫を直接とりだすのです。
寄生虫との接触を避けて感染を予防する

寄生虫症はワクチンや予防薬がないため、予防するには感染経路を断つことが重要です。経口感染と経皮感染、両面から対策をとりましょう。
内部寄生虫の対策

内部寄生虫は経口感染するので、汚染された飲食物をとらないよう注意してください。生肉や魚、野菜はよく加熱してから食べましょう。加熱せずに寄生虫を駆除する場合、魚はマイナス20度で24時間ほど冷凍すれば、寄生虫が死滅します。また、野菜はよく洗うことで寄生虫を取り除けます。
また、寄生虫を体内に入れないためには、手を清潔に保つことも大切です。トイレや調理のあとは、手洗いをしっかりと行いましょう。
海外ではさらに注意が必要
海外渡航の際は、より一層の注意が必要です。途上国などの衛生環境が整っていない地域では、寄生虫に感染するリスクが、国内よりもはるかに高まります。
食事は生食を避け、火がしっかりと通ったものを食べれば安全です。水を飲むときは、生水を1分以上は沸騰させるか、ビンやボトルに入った飲料水を買いましょう。また、河川や土壌が寄生虫に汚染されていることもあります。川や池に入ったり、土に触れたりすることはできるだけ避けましょう。
外部寄生虫の対策

外部寄生虫の感染を予防するには、皮膚との接触を避けることが確実です。例えばマダニは、草むらや水辺の茂みなどに生息しています。そうした場所に立ち入る際は肌の露出を避け、皮膚に寄生虫が触れないようにしましょう。寄生虫はあらゆる場所にいるので、身の回りを清潔に保つことが大切です。
寄生虫と接触しないよう対策することで、寄生虫症への感染は防げます。
寄生虫のまとめ
寄生虫は宿主から栄養をとって生きている生物です。原虫や線虫、条虫などの様々な種類が存在します。寄生虫の種類により、感染経路やライフサイクルなども大きく異なります。
寄生虫は宿主の体内を住処とする内部寄生虫と、宿主の体表にとりつく外部寄生虫に大別されます。寄生虫は食べ物から人間の体内に入ったり、自ら移動して皮膚にとりついたりするのです。
寄生虫症の治療では、駆虫薬を用いるのが基本です。病状によっては、対症療法や外科手術を行う場合もあります。寄生虫症を予防するためには、寄生虫との接触を避けることが大切です。飲食物はしっかりと熱処理し、寄生虫が生息する場所にはできるだけ立ち入らないにしましょう。
参考文献・参考サイト
性病の用語集「寄生虫」は、以下のサイトや資料を参考に作成しました。