公開日
2017/12/08
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性病の原因というと「細菌」や「ウイルス」などが思い浮かびますが、実はそれだけではありません。ケジラミと呼ばれるシラミの仲間が、性病の原因になることもあるのです。

ケジラミは人の陰毛に寄生し、毛じらみ症という病気の原因になります。デリケートゾーンに激しいかゆみが生じ、非常に不快なうえ、感染が広がりやすい厄介な病気です。ここでは、そんなけじらみ症の特徴から治療法、予防、対策について詳しく解説していきます。

シラミが引き起こす性病

シラミは3種類で種類によって寄生する部位や症状が異なる

シラミの一種であるケジラミは、人間の陰毛に寄生し、性病の原因となります。

シラミと聞くと、人の頭にわいてかゆみを起こす、子供が学校でうつされるといった印象ですが、それだけではありません。実は人間に寄生するシラミは3種類おり、種類によって寄生する部位や症状が異なります。

人間に感染するシラミ
種類 アタマジラミ ケジラミ コロモジラミ
写真
アタマジラミ
ケジラミ<
コロモジラミ
大きさ
(mm)
2~4 1~2 2~4
感染部位 頭髪 陰毛 衣類
主な症状 頭皮のかゆみ 陰毛部のかゆみ 体の各部のかゆみ
特徴 子供に多い 性行為を通じて感染 発疹チフスなどの感染症を媒介

画像引用元:名古屋市:シラミ類について(暮らしの情報)

上の表は、人間に寄生するシラミの種類をまとめたものです。このなかでもケジラミは陰毛を好んで寄生し、性行為や深い接触を通して感染します。そのため、毛じらみ症は性感染症に分類されているのです。

毛じらみ症は、国内の衛生環境が改善されたことで一度は減った病気です。しかし近年、日本での感染者数は再び増加の傾向にあり、年間でおよそ5000人から6000人ともいわれています。毛じらみ症が減少したために、知識や対策が次の世代に伝わらなかったことなどが、感染が広がる原因と考えられています。

ケジラミとの接触で広がる感染

誰でも毛じらみ症に感染する可能性があります

ケジラミに接触する機会があれば、誰でも毛じらみ症に感染する可能性があります。一般的には「シラミ=不潔」という印象が強いかもしれません。しかし清潔であるかどうかと、ケジラミが寄生することは無関係です。

毛じらみ症には、主に性行為によって感染します。また、生活用品を共有することで間接的に感染してしまう場合もあるのです。毛がある部位ならどこでも生息できるので、陰部以外への感染にも注意しましょう。

性行為による感染

毛じらみ症への感染は多くの場合、性行為による接触が原因です。具体的には、性行為の際に陰毛が触れ合うことでケジラミがうつり、感染が引き起こされます。ケジラミは基本的に患部の同じ場所に寄生し続けるので、自分から活発には動き回りません。1日に10cmほどしか歩けず、積極的にほかの場所へ行けないのです。そのため、陰毛同士が直接触れ合う性行為が主な原因となります。

間接的な感染

ケジラミが付着したものに触れると、間接的に感染することもあるので注意しなければなりません。ケジラミは人体から離れ、吸血できなくても約2日は生き延びるため、感染者と生活用品を共有すると感染の原因になるのです。具体的には、患部に触れたタオルや衣類、寝具などから感染します。そのため、性行為をおこなう男女だけでなく、家族や親子の間でも毛じらみ症が広がる可能性もあるのです。

一方水の中では、ケジラミは寄生している部分にしがみつきます。そのため水中にケジラミが浮いていることはほぼなく、プールや浴槽で感染することは稀です。

陰毛以外の場所にも寄生する

基本的にケジラミは陰毛に寄生し、積極的に他の部位に取り付くことはありません。しかしし、ケジラミは毛が生えている場所ならどこでも繁殖します 何らかの理由で他の場所にうつると、そこで繁殖する可能性があるのです。

ケジラミが陰毛以外で寄生しやすいのは以下の部位です。

  • 肛門の周辺
  • 太もも
  • 胸毛
  • わき毛
  • ひげ
  • 眉毛・まつ毛
  • 頭髪

ケジラミが陰毛以外の場所に感染する原因として、上述の間接的な接触が挙げられます。また、性交中に感染している人の陰毛に触れてしまい、リストにある部位に感染する場合もあるのです。自分が毛じらみ症に感染してから気付かず放っておくと、別の部位でも発症するリスクを伴います。

毛じらみ症の症状

毛じらみ症の主な症状はデリケートゾーンの強いかゆみ

毛じらみ症の主な症状はかゆみです。また、かゆみが原因で別の疾患の原因となることもあります。どのような症状が出てしまうのか、詳しく解説します。

主な症状はかゆみ

毛じらみ症の主な症状はデリケートゾーンの強いかゆみです。感染して約1カ月から2カ月後に症状があらわれます。

かゆみの症状はアレルギー反応によるものです。ケジラミは陰毛に取り付くと、毛根付近の皮膚に咬みつき、血を吸います。その際に流し込む麻酔成分が、体内でアレルギー反応を起こすため、かゆみが生じるとされています。また、症状の度合いには個人差があります。数匹が取り付いただけでかゆみを訴える人もいれば、多数のケジラミが寄生していてもかゆみが出ない人もいるのです。

毛じらみ症によって起こるかゆみが強いのは、ケジラミが同じ場所で血を吸い続けるのが原因です。成虫の寿命は1カ月ほどですが、その間に約40個の卵を産みます。卵は一週間ほどでふ化し、血を吸って成長し、さらに繁殖していくのです。増殖したケジラミはあまり移動せず、同じ場所で吸血を続けます。つまり一か所で何度もアレルギー反応を起こし続けるために、ときには夜も眠れなくなるほどの強いかゆみを引き起こすのです。

かゆみが原因で別の疾患になることも

毛じらみ症そのものは重大な症状を起こさないものの、別の病気の原因になることがあります。

ケジラミは発疹などの目立つ症状を起こしたり、伝染病の元となる病原体を媒介したりはしません。しかし、かゆみに耐えられず掻きむしっていると湿疹(掻破性湿疹)ができてしまうことがあります。また、掻きすぎて傷ついた皮膚に雑菌が入り、毛嚢炎膿痂疹(とびひ)の二次感染を起こす原因にもなるのです。症状が長期にわたると、ケジラミが噛んだ皮膚の部分に色素が沈着し、青灰色のしみができる場合もあります。

このように、毛じらみ症に感染すると、かゆみを中心に厄介な症状があらわれます。

毛じらみ症かどうか確かめる方法

患部に病原体のケジラミがいる目視で確かめる

毛じらみ症にかかっているかを判別するには、まず患部に病原体のケジラミがいるかを確かめます。特別な検査をおこなわずとも、自分で見るだけで判断できるのです。かゆみがあり、陰毛の部分にフケのようなものや茶色い汚れがついていると、毛じらみ症が疑われます。自分で見ても不安な場合は病院を受診しましょう。

患部を見てケジラミを探す

もっとも簡単におこなえるのは、陰毛にケジラミがいないか、自分で見て確かめることです。ある程度ケジラミが繁殖していれば、患部を直接見るだけでわかります。色や大きさは一見するとフケのようですが、よく見ると下の写真のような形をしています。

ケジラミの卵と成虫

画像の左側がケジラミの卵、右側がケジラミの成虫です。陰毛についたフケのようなものが、わずかに動いているならケジラミです。感染している場合、毛を抜くと根元に卵がついている場合があります。しかし、ケジラミの体長は1mm前後と非常に小さく、卵も約0.5mmしかありません。小さすぎて見つからなかったり、陰部のシミと間違えたりする可能性もあります。

ケジラミの糞便の汚れを探す

もうひとつ、毛じらみ症の判別の手がかりになるのが、下着に付着する茶色い粉です。これはケジラミの糞便で、陰毛部で血を吸って繁殖している証拠です。

ケジラミは陰毛部で血を吸って繁殖している

上の写真が、陰毛についたケジラミの糞便です。ケジラミそのものを確認できない場合、このような汚れがあるかどうかを確認してください。デリケートゾーンにかゆみを感じ、下着に心当たりのない汚れがついていたら、毛じらみ症を疑いましょう。

不安な場合は病院で検査を受ける

ケジラミがそれほど繁殖していないと、感染に気づかず処置が遅れてしまうので、不安な場合は病院で診察を受けましょう。毛じらみ症を受診するなら、皮膚科が一般的です。そのほか、泌尿器科、婦人科、性病科でも対応してもらえます。病院では患部から採取した毛や付着物を検査し、毛じらみ症の診断を受けます。診察代は3000円から5000円ほど、検査代はおよそ2000円です。保険適用の場合は前述の金額の3割負担になります。

毛じらみ症は自分で治療できる!

ケジラミを患部から取り除いて治療します

毛じらみ症は、病原体であるケジラミを患部から取り除いて治療します。主な治療法は薬剤による殺虫です。市販の薬やコームで治療できるので、ほかの感染症と比べても簡単に治療できます。また、感染している部位の毛を全て剃ってしまうという治療法もあります。

ケジラミ駆除にはスミスリン

KINCHOのシラミの駆除・対策用のシャンプー 「スミスリン」

「スミスリン」は、体についたシラミやダニを駆除する効果をもつ市販薬です。寄生虫の神経を麻痺させ、駆除する働きをもちながら、毒性が低いため安全に使えます。シャンプータイプとパウダータイプがあり、ドラッグストアで2000円前後で購入できます。

スミスリンを使ってケジラミを駆除する際は、期間を空けて繰り返し使うことが重要です。なぜなら、ケジラミの卵にはスミスリンが効かず、治療したあとにふ化して再び繁殖してしまうからです。ケジラミの卵はおよそ1週間でふ化するため、そのタイミングを狙って治療を繰り返さなければなりません。2日から3日に一度スミスリンを使用し、それを3回から4回繰り返せば、2週間ほどで患部のケジラミを完全に除去できます。ケジラミの卵の殻や死骸が患部に残ることがあるので、付属のくしをつかって取り除きましょう。

スミスリンに耐性をもったケジラミもいる

近年では、スミスリンに耐性をもったケジラミがあらわれ、十分に効果を発揮しない場合もあります。スミスリンを使ってもケジラミがいなくならなければ、別の製品を使いましょう。「シラミン」という製品は、ケジラミを脱水、窒息させて駆除します。

生理周期とスキンケアの流れ

輸入商品のため届くのに5日から14日かかり、価格もスミスリンのおよそ2倍ですが、ケジラミの卵も駆除できるのが特長です。

手間を惜しまなければ専用のコームも有効

ケジラミを含む、人に寄生したシラミを除去するためのコーム(くし)も市販されています。国内品の「ニットピッカーフリーコーム」とアメリカ製の「ライスマイスター」という製品が有名で、2500円ほどで購入できます。ドラッグストアでは取り扱っている店舗が少ないため、ネット通販での購入が確実です。

コームは目が細かいため小さなケジラミを取るのに効果的です

シラミ専用のコームは普通のくしよりも目が細かいため、小さなケジラミを取り除くのに効果的です。スミスリンと同じく、ケジラミの卵がふ化するタイミングを狙って、繰り返し行います。

薬剤のように消費してなくなるものではないので、何度も使えるのがメリットです。家族やパートナーにもケジラミがうつり、数人の治療が必要な場合は、コームを使うことで市販薬よりも出費を抑えられます。少しでもケジラミの成虫や卵を残すと再び繁殖するため、根気をもって治療しなければなりません。

毛を剃れば完治できる?

陰毛を剃り、ケジラミの住処をなくすことでも駆除は可能です。しかし同時に感染を広げるリスクもあるので注意が必要です。剃り残してしまった毛にケジラミがいた場合、新しい住処を求めて太ももなど別の部位にうつる可能性もあるのです。とはいえ、陰毛をきれいに剃り切ることができれば、ケジラミは退治できます

以上が毛じらみ症の治療法です。手間や費用などを考え、自分に合った方法で治療しましょう。

毛じらみ症の感染・再発を防止する対策

完治するまでは性交やスキンシップを控えましょう

毛じらみ症は病原体のケジラミに触れることで感染します。主な原因である性行為を避けること、そして生活用品を共有しないことを心掛ければ、毛じらみ症の拡大を防げます。

性行為を控える

性的接触が毛じらみ症の主な原因です。完治するまでは性交やスキンシップを控えましょう。ケジラミは陰毛に寄生しているため、コンドームをつけても予防できません。

毛じらみ症は感染してから発症まで1カ月から2カ月の潜伏期間があり、その間に感染が広がっている可能性があるので注意が必要です。たとえば、発症の1カ月から2カ月前に性的な接触があった場合、相手がケジラミを保有していた可能性があります。逆に、自分から相手にうつっているかもしれません。毛じらみ症に気付いたらまずは性行為を控え、パートナーと共に治療することが大切です。

家庭内での対策

毛じらみ症は家庭内で広がることもあります。感染した人が使ったものに触れると感染するので、しっかりと対策をとりましょう。

自分や周囲が感染していることがわかったら、寝具やタオル、衣類などの生活用品の共有は避けてください。熱湯やアイロンで熱処理するか、ドライクリーニングや乾燥機を使うことで、付着しているケジラミを駆除できます。こうした処理ができない場合、ポリ袋などで密閉して2週間ほど放置すれば、ケジラミは餓死していなくなるでしょう。

ピンポン感染に注意

毛じらみ症の感染が拡大しているのに気付かないままいると、ピンポン感染の原因になります。ピンポン感染とは、お互いに感染症をうつしあってしまうことです。感染症を相手にうつし、治療後に相手から再び感染し、また自分から相手に……と、ピンポンのように感染を繰り返してしまいます。ピンポン感染を防ぐためにも、1人が感染したらパートナーや家族など、周囲の人も毛じらみ症かどうかを確認しなければなりません。何度も再発を繰り返す前に、周りの人と一緒に治療を行いましょう。

細かな注意が必要ですが、ケジラミとの直接、間接的な接触を断つことで、毛じらみ症への感染は防げます。

毛じらみ症のまとめ

毛じらみ症は陰部に虫が寄生し、かゆみを引き起こします。命にかかわるような症状を起こすことはありませんが、身体的にも精神的にも非常に不快な病気です。また、病原体のケジラミは簡単に感染が広がるので、早めの処置が必要です。

感染しているかどうかは、陰毛のケジラミの確認、または下着についた糞便で判別できます。不安な場合は皮膚科で診察を受けましょう。毛じらみ症の治療は市販の薬やコームを使い、時間をかけておこないます。ケジラミとその卵をしっかりと除去することで完治が可能です。また、感染が広がらないよう、寝具やタオルなどの共有を避け、念のため周りの人も感染していないか確認しましょう。ケジラミの感染が広がるのを徹底して防ぐことが重要です。

ケジラミに接触すれば、衛生状態に関わらず毛じらみ症にかかるので、「毛じらみ症になった=不潔な人」というわけではありません。もし自分や周囲が感染しても過剰に相手を避けたり不安になったりせず、適切な対策をおこないましょう。