公開日
2018/01/24
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「ウイルス」は、さまざまな病気の原因として知られています。では、ウイルスとはいったいどのような存在なのでしょうか?同じく病気の原因としてよく挙がるのは「細菌」ですが、「ウイルスと細菌の違いがよくわからない」という人も多いでしょう。

ウイルスは、細菌や他の病原体とは全く違う性質を持った存在です。病気を引き起こす仕組みも独特なため、治療法も異なります。今回はそんなウイルスの仕組みや、ウイルスが引き起こす感染症の対策について解説していきます。

ウイルスの特徴

ウイルスは病原体の一種で、生物に感染して病気を引き起こします

ウイルスは病原体の一種で、生物に感染して病気を引き起こします。しかしウイルスには、細菌や真菌といった他の病原体とは決定的に違うところがあります。それは他の生物の細胞に寄生して繁殖するという性質です。

では、ウイルスはどのような特徴を持った存在なのでしょうか?ウイルスの構造や増殖の仕組みについて解説していきます。

ウイルスは生物と無生物の中間

ウイルスは生物と無生物の中間のような不思議な存在

ウイルスは生物の要素と無生物の要素、どちらも兼ね備えた存在です。

生物の体は、細胞で構成されています。また、生物は栄養を取り込んでエネルギーに換え、生殖や分裂によって数を増やします。しかし、ウイルスにはそういった機能がありません。一方で、自分の遺伝情報によって増殖するという、生物的な性質も持っています。そのため生物と捉えられることもあれば、無生物と考えられることもあります。いわばウイルスは、生物と無生物の中間のような不思議な存在なのです。

ウイルスの構造ー遺伝子とタンパク質のセット

ウイルスは、遺伝情報の入った核酸とタンパク質のみという単純な構造です。ウイルスの基本的な構造を画像で見てみましょう。

ウイルスは遺伝情報の入った核酸とタンパク質のみという単純な構造

画像の中心にある核酸とは、ウイルスの遺伝情報が入っている部分です。ウイルスは核酸を元に、自分のコピーを大量に複製します。核酸はカプシドと呼ばれるタンパク質の殻に覆われています。これがウイルスの基本的な構造です。また、ウイルスの種類によっては、カプシドの上にエンベロープという膜を持っています。

ウイルスは細胞に寄生して増えていく

ウイルスは他の生物の細胞に寄生し増殖します

ウイルスは単純な構造であるため、自分の力では増殖できません。普通の生物のようにエネルギーを取り入れられないのです。そのため、ウイルスは他の生物の細胞に寄生し、その機能を利用して増殖します。

ウイルスが細胞を乗っ取る

ウイルスは宿主となる細胞と接触すると、その表面に吸着します。細胞にはレセプターといわれる、特定の物質と結合するタンパク質があります。ウイルスは、自分と結合できるレセプターを持った細胞のみに吸着するのです。たとえば、HIVは人間のヘルパーT細胞にのみ吸着します。以下は、HIVウイルスがT細胞に寄生し、増殖する過程を図に表したものです。

ウイルスが細胞を乗っ取る

ウイルスは細胞の内部に入り込むと、カプシドから核酸を放出します。細胞内に放出された核酸は細胞の核に入り込み、自分のDNA を組み込みます。こうしてウイルスは、生物の細胞の機能を乗っ取り、自分のコピーを大量に作るのです。ウイルスは増殖を終えると、細胞から出ていきます。細胞から出てきた大量のウイルスは別の細胞に取り付き、どんどん数を増やしていくのです。

ウイルスは細胞を壊していく

ウイルスに感染し、増殖のために利用された細胞は、死滅したり正常に機能しなくなったりします。

ウイルスは寄生した細胞の機能を酷使したうえ、細胞から出ていく際に細胞膜を破って外に飛び出します。そのため、宿主となった細胞は死滅してしまうのです。ウイルスの中には、細胞を殺さず、時間をかけて増殖していく種類もいます。また、寄生した細胞をがん化させるウイルスもいるのです。

このようにウイルスは、自分が増殖するために他の生物の細胞を壊していきます。それにより、さまざまな病気が引き起こされるのです。

ウイルスの種類と引き起こす感染症

ウイルスを抑制するために発熱や炎症といった症状が現れる

ウイルスは体内に侵入すると、増殖しながら細胞を破壊し、体にさまざまな悪影響を及ぼします。また、ウイルスを抑制するために体の免疫機能が働き、その過程で発熱や炎症といった症状が現れるのです。

ウイルスは、核酸の種類で「DNAウイルス」「RNAウイルス」の2種類に分類されます。この2種類について、それぞれの特徴と、代表的なウイルスの種類を紹介します。

DNAウイルス

DNAウイルス

DNAウイルスは、遺伝情報の欠損が起こりにくいのが特徴です。DNAは、生物の遺伝情報の保存と伝達を担う物質です。DNAに記憶されている遺伝情報からタンパク質が作られることで、生物の体は成り立っています。DNAは、2本の鎖がらせん状に組み合わさった構造です。鎖のどちらかが傷ついても、もう一方が修正するため、遺伝情報が正確に伝わります。代表的なDNAウイルスを、以下の表で見てみましょう。

主なDNAウイルス
ウイルスの名前 引き起こす感染症
ヘパドナウイルス
  • B型肝炎
ヘルペスウイルス
  • 性器ヘルペス
  • 口唇ヘルペス
  • 水痘(水ぼうそう)
パピローマウイルス
  • 尖圭コンジローマ
  • 子宮頸がん

DNAウイルスは、遺伝情報を伝える能力が安定している分、変異もあまり起こりません。そのため、人間の作ったワクチンなどに対応できないのが特徴といえます。

RNAウイルス

RNAウイルス

RNAウイルスは、性質の変化が起こりやすいのが特徴です。RNAは、DNAから遺伝情報の一部をコピーし、実際にタンパク質を合成する役割を担っています。本来は必要に応じてDNAから作り出されるものです。しかし、ウイルスの場合、RNAはDNAと同じように遺伝情報の保存と伝達をおこないます。主なRNAウイルスを、以下の表にまとめました。

主なRNAウイルス
ウイルスの名前 引き起こす感染症
ライノウイルス
  • かぜ症候群
オルトミクソウイルス
  • インフルエンザ
カリシウイルス
  • 胃腸炎
レトロウイルス
  • AIDS(後天性免疫不全症候群)
  • 成人T細胞白血病

RNAは1本の鎖のみでできているため、DNAに比べて不安定で、遺伝情報の欠損がしばしば起こります。そして遺伝情報が正確にコピーされなかった結果、本来のものとは性質の異なるRNAに変異します。変異したRNAウイルスは、人間が作ったワクチンを無効化してしまうのです。ワクチンが作られているのにインフルエンザがたびたび流行するのは、RNAウイルスが原因となっているからです。

他にもさまざまなウイルスが存在し、多くの感染症の原因になるのです。次は、ウイルスによる感染症の治療法について触れていきます。

ウイルス感染症の治療法

ウイルス感染症は治療薬の種類が限られている

ウイルス感染症は、治療薬の種類が限られており、対症療法がメインとなります。ウイルスは、細菌や真菌といった他の病原体とは大きく異なる特徴をもつため、治療法も異なるのです。ウイルスそのものを攻撃できる薬が少ないため、症状を抑える薬を使いながら回復を待ちます。

ウイルスは対症療法で治す

代替テキスト

ウイルス感染症にかかったら、基本的に対症療法をおこないます。対症療法とは、病気の原因を取り除くのではなく、症状を和らげることを目的とした治療法です。たとえば、風邪なら解熱剤や咳止め、胃腸炎なら整腸剤を使い、症状を抑えます。ウイルスは人間の細胞を乗っ取るので、ウイルスだけを攻撃するのは難しいのです。そのため、対症療法をおこないながら、体の免疫機能がウイルスを排除してくれるのを待ちます。つまり、「辛い症状を薬で和らげ、自然治癒するのを待つ」ということが、ウイルス感染症の基本的な治療法です。

ウイルスを抑える薬は少ない

ウイルスに直接作用する抗ウイルス薬はわずか

ウイルスに直接作用する抗ウイルス薬は少数です。ウイルスは種類が多いうえ、それぞれの特徴が異なります。そのため、抗ウイルス薬を開発しても、膨大な種類のウイルスのうち、たった1種にしか対応できません。また、ウイルスが変異すると、それまで有効だった薬は効かなくなってしまいます。新薬を作るためには莫大な開発費がかかるため、あらゆるウイルスに合わせて抗ウイルス薬を作ることもできません。

このような理由で、抗ウイルス薬の数は少ないのです。抗ウイルス薬の開発に成功しているのはインフルエンザやヘルペス、HIVなど、一部のウイルスに限られています。また、ウイルスはたびたび変異して薬に耐性をもつため、抗ウイルス薬は万能ではないのです。

ウイルス感染症を予防するには

ウイルス感染症の予防には2つの方法がある

ウイルス感染症の予防には2つの方法があります。1つは衛生に気をつかい、感染を未然に防ぐこと。もう1つは、ウイルスへの免疫を強化し、発症を防ぐことです。それぞれについて、以下より詳しく解説します。

衛生を意識してウイルス感染を予防する

ウイルス感染症に有効な予防法は手を洗うこと

ウイルスはさまざまな経路で体に侵入します。感染を防ぐためには、衛生管理に常に気を配ることが重要です。

ウイルス感染症に対してもっとも有効な予防法は、こまめに手を洗うことです。ドアノブや手すりなどは多くの人が触れるため、そこを介してウイルスが手に付着する可能性があります。ウイルスと接触した手で口や鼻に触れることで、ウイルスに感染してしまうのです。手指を清潔に保っていれば、ウイルスに感染するリスクを減らせます。

マスクだけではウイルス感染を防げない

マスクの着用はウイルス感染の予防に有効なイメージですが、マスクだけではウイルスをブロックできません。マスクを着けることで、喉の粘膜の乾燥を防ぎ、ウイルスへの抵抗力を高める効果はあります。しかし、ウイルスは粒子がとても小さいので、マスクの繊維を通り抜けて体内に入ってくるのです。

マスクは補助的な予防法と考え、衛生管理に気を配り、ウイルスの感染を防ぎましょう。

2種類の免疫でウイルスに対抗する

免疫機能がしっかり働いていれば、ウイルスに感染しても発症は防げます。免疫機能には、「自然免疫」「獲得免疫」の2種類があります。自然免疫を維持し、獲得免疫を作ることで、体内に侵入したウイルスを撃退できるのです。

自然免疫

自然免疫は人体にあらかじめ備わっている免疫機能

自然免疫は、人体にあらかじめ備わっている免疫機能です。体内に入り込んだ病原体を察知し、排除します。自然免疫を保つには、健康な生活を意識することが重要です。睡眠不足やストレス、疲労の蓄積などがあると、免疫機能の働きが悪くなります。また、栄養バランスの悪い食事も、免疫を下げる大きな原因です。日ごろの生活リズムや食事のバランスに気をつかうことで、自然免疫を維持できます。

獲得免疫

代替テキスト

獲得免疫は、自然免疫が処理しきれない病原体に対抗する機能です。人体に侵入した病原体を記憶し、再び感染したときに活躍します。そのため、獲得免疫は病原体に感染しなければ作られません。しかし、予防接種を受けることで、感染する前に免疫を獲得できます。予防接種に使われるワクチンに含まれているのは、毒性を弱めた病原体です。ワクチンで無害化されたウイルスを取り入れ、体内で獲得免疫ができれば、ウイルス感染を防げるのです。

ウイルスのまとめ

ウイルスは、生物と無生物の中間のような性質を持つ不思議な存在です。細胞や代謝機能を持たない一方で、遺伝子を持ち、他の生物の細胞を利用して増殖します。ウイルスは人間に感染すると、増殖しながら細胞を破壊し、さまざまな感染症を引き起こします。有効な抗ウイルス薬はあまり開発されていないため、ウイルス感染症にかかったら、大抵は症状を抑えながら回復を待つことになります。ウイルスは他の病原体に比べて特殊な性質を持っていますが、治療法は定まっているのです。

衛生に気を配って健康な状態を保ち、ウイルス感染症を防ぎましょう。