
バルトレックスの作用・患部に直接届く!アシクロビル改良版
バルトレックスはヘルペスウイルスに効果的な抗ウイルス薬です。バルトレックスの有効成分「バラシクロビル」はどのように体に作用し、ヘルペスウイルスを抑え込む効果を発揮するのでしょうか。バラシクロビルは体内に入ってから「アシクロビル」に変化します。そのアシクロビルこそがヘルペスウイルスを抑制するのです。
では、バルトレックスがどのようにしてヘルペスウイルスの増殖を止めるのか、その詳しい過程について説明します。
バルトレックス(バラシクロビル)はどんな薬?
バルトレックスは、性器ヘルペスや口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルスや、その仲間の水痘・帯状疱疹ウイルスに有効な抗ウイルス薬です。有効成分のバラシクロビルはウイルスを完全に死滅させられないので、ウイルスが細胞に定着したあとでは治療が困難になります。そのため、症状に気付いたらすぐにバルトレックスを服用することが大切です。

バラシクロビルはアシクロビルの「プロドラッグ」
バラシクロビルはもともと抗ウイルス薬として使われていたアシクロビルに、バリン(アミノ酸の一種)を結合させた「プロドラッグ」です。プロドラッグとは、有効成分をできるだけ効率よく患部に届けるため、体内で代謝されてから活性化するように作られた薬です。アシクロビルのプロドラッグであるバラシクロビルは、代謝されることでアシクロビルと同じ作用をもたらします。
バラシクロビルの吸収率はアシクロビルの5倍!
バラシクロビルがアシクロビルに比べて優れているのは、体内で吸収されやすいという点です。
アシクロビルはそのまま飲むと肝臓で分解されてしまい、あまり体に吸収されません。そのため、患部までたどり着けるアシクロビルは少量で、効果も薄れてしまいます。対してバラシクロビルは、肝臓で代謝された後、アシクロビルに変化して吸収されます。飲み薬のバラシクロビルとアシクロビルを比べると、バラシクロビルは有効成分の吸収率が5倍にもなっているのです。
肝臓で数を減らしていたアシクロビルと違い、バラシクロビルは被害を最小限にして患部までたどり着くことができます。有効成分が減衰しないため、より高い効果を保つことができるのです。
バラシクロビルがアシクロビルに変換されてからの作用
バラシクロビルはアシクロビルに変換され、ヘルペスウイルスを攻撃します。アシクロビルは感染細胞に取り込まれやすく、なおかつ感染細胞でしか活性化しません。このような性質によって、ウイルスに感染した細胞を選択的に攻撃できるのです。
では、アシクロビルは感染細胞に入り、どのようにヘルペスウイルスを撃退するのでしょうか?

アシクロビルはウイルスのDNA複製を邪魔する
ヘルペスウイルスは宿主に依存し、DNAを複製することで増殖します。アシクロビルはリン酸化されて活性化し、ヘルペスウイルスのDNA複製を邪魔するのです。ウイルスが増殖して完全に定着すると、抗ウイルス薬が効きにくくなってしまいます。そのため、DNAをコピーしている途中にアシクロビルで止めなければなりません。ヘルペスの症状が出たとき、すぐにバルトレックスを服用しなければならないのはこのためです。
アシクロビルがDNA複製を邪魔する方法
では、さらに詳しくアシクロビルの作用を説明していきます。アシクロビルがどのようにウイルスのDNA複製を邪魔するかを知るために、DNAの複製に必要な要素と、アシクロビルがリン酸化する過程を知りましょう。そして、アシクロビルがDNA複製を止めるためにどのような役割を果たしているのか、順を追って説明します。

DNA合成に必要な「デオキシグアノシン3リン酸」
上記したように、ヘルペスウイルスはDNAのコピーを作って増殖し、病巣を広げていきます。そのDNA複製の役割を果たしているのはDNAポリメラーゼという酵素です。このDNAポリメラーゼが正常にウイルスをコピーするのに不可欠なのが「デオキシグアノシン3リン酸」です。
DNA合成を邪魔する「アシクロビル3リン酸」
アシクロビルはヘルペスウイルスの感染細胞で段階を経てリン酸化されていきます。
まずウイルスのチミジンキナーゼによって1リン酸化されます。次に感染細胞のキナーゼによって3リン酸化されて活性化します。この活性化したアシクロビルが、DNA合成を阻害する作用を持った「アシクロビル3リン酸」です。
ウイルスが間違えて結合する

では、アシクロビル3リン酸がどうしてDNA複製を止められるのかというと、デオキシグアノシン3リン酸と構造がよく似ているからです。
ヘルペスウイルスが勘違いをして、本来必要なデオキシグアノシン3リン酸ではなく、よく似たアシクロビル3リン酸の方を取り込んでしまいます。アシクロビル3リン酸を間違えて取り込むことによって、DNAは正常なコピーができなくなるので、ウイルスも増殖できなくなります。
こうした働きによって、アシクロビルはヘルペスウイルスの増殖を抑制しているのです。
まとめ
バルトレックスの有効成分バラシクロビルは、体内にそのまま取り込んでも、ヘルペスウイルスに効果はありません。体内で代謝されてアシクロビルとなり、初めて効果を発揮します。
アシクロビルはウイルス感染細胞でしか活性化しないので、ヒトの細胞には害を及ぼしません。ヘルペスウイルスに侵された細胞を選択して攻撃します。感染細胞の中でヘルペスウイルスのDNA複製を阻害し、増殖を止めるのです。
バルトレックスの服用で、ヘルペスウイルスを完全に殺すことはできませんが、増殖を抑えて効果的に症状を治療できます。